天才アニメーション作家”湯浅政明”さんのおすすめ作品5選

2017年は4月7日に星野源さんが主人公の声を演じることで話題の『夜は短し歩けよ乙女』が、5月19日には自身初となるオリジナルアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』が公開と、年に二本も、しかも矢継ぎ早に二ヶ月連続という前代未聞のインターバルで劇場用映画が公開されるという、今年は湯浅政明ファンにとっては盆と正月がいっぺんに来るくらいの嬉しい年になりそうです(ん、デジャヴュ)。

ということで今ノリに乗っている日本アニメーション界でも突出してユニークな天才アニメーション作家、湯浅政明さんの作品をいくつかご紹介したいと思います。アニメーター/デザイナーとしては一連の『クレヨンしんちゃん』の映画や『ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌(1992年)』や『THE八犬伝~新章~ 4話 浜路再臨(1994年)』で名を馳せ、携わった作品も多い湯浅さんですがここでは演出作品に絞ってご紹介したいと思います。以下年代順で。


カイバ(2008年)』
(原作・監督・シリーズ構成・脚本・絵コンテ・演出)

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≪上記画像は「湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects」より。企画書用の初期デザイン≫

 湯浅さんと言ったら先ずはこの作品です。 当時としてはかなり突っ走っていた『ケモノヅメ(2006年)』よりもさらにその先へ突っ走ったとも言えるのがこの作品です。WOWOW 深夜枠と言うことであまり有名ではないかも知れませんが、日本で『ファンタスティック・プラネット』並みかそれ以上にイマジネーション豊かな美しい世界観のアニメーションというとこれ以外思い付きません。

本来であれば攻殻機動隊の遥か先を行くサイバーパンクで今話題の1984的なディストピア的なハードSF と言うことになるのでしょうが、初期手塚っぽい丸っこくてかわいいキャラデザ(まんまロックっぽいキャラも)で童話風のシンプルな美術を背景(変なデザインなのにちゃんと機能的な意味があるのが後で分かる)のせいで取っつきやすいながらもさらに毒が効いているという感じのユニーク過ぎる作品です。

まずこの作品は記憶(心、あるいは霊魂)と体が交換可能な世界では何が起こるのかと言うことがアニメーションならではのユニークさで表現されます。記憶と体が交換可能というのは文字通り記憶をチップ化(コピーしたりLANで転送もできる)して全く別のボディ(の頭)に埋め込んで自由に交換出来ると言うことです。但しこれは富裕層に限った話でありボディの買えない貧困層は一つのロボットに家族のチップを入れて暮らしていたりします(「結局は金」という文言がアバンで表示されたりします)。

そしてこのアニメの主人公はややこしい事に記憶と体が物理的に分離させられたまま『ヒドゥン』のようにボディを乗り換えて『銀河鉄道の夜』や『銀河鉄道999』のように宇宙を旅するのです。

さらに記憶ボディを乗り換える事が出来るということはボディの性別も自由に交換可能であるということになります。しかも自分の記憶チップをコピーすれば自分自身のコピーが出来るので、自分をコピーしたチップを異性のボディに埋め込めば自分自身とセックスするという変態行為も可能になるのです(このあまりにも倒錯的なエピソードは早くも第2話で描かれます)。

そして上記の設定に関連してさらにこのアニメがユニークなのはその記憶に関する描写です。

まず記憶チップ化処理をしていない生身の人間が死ねば(霊魂のような目に見えない存在ではなくて)のような物理的な液体の物体がふわふわと記憶の断片として宙に漂って昇天します。

これを虫取網で集めて死体の遺伝子から培養したボディに注入すれば人は再度生き返る事が可能になります(本作ではさらに踏み込んで生き返った人間の記憶を操作してテロリストに仕立てあげるという話も出てきます)。

また銃のような機械(ホーレイト―という名前)を使って人の頭を照射すればマンガの吹き出しのようなイメージの中にその人の記憶見る事が出来てしまいます。

そしてあまつさえその吹き出しの中に人間が乗り込んで直接的に記憶の断片(本棚の中の本として整然と並んでいたりします)に触れてその中身を見る事が出来るのです。

そして主人公の記憶喪失カイバが何か思い出したら頭の周りに虹というかステンドグラスのようなリングが後光のように差したり、敵に対してはどす黒い嫌な記憶を『スキャナーズ』のように敵の頭に注入して攻撃したりします。

つまり人間の記憶というこの上なく曖昧で形而上的な存在が、手に触れ、目に見れる事ができるあくまでも物理的な”物体”として本作では表現されているのです。

まぁ、この発想もブッ飛んでますがそのブッ飛んだ発想がちゃんと子供向けアニメのような分かりやすい表現に昇華されているのが湯浅さんが天才と呼ばれるアニメーション作家たる所以です。

物語はこのアニメの主人公である「星の王子様」というか「記憶の王様」であるカイバ君がポッカリと胸に穴の空いた記憶喪失の状態で空から落ちてきたことから始まります(なぜ胸に穴があいているか、彼の正体は何であるかという謎は物語の終盤に明かされます)。

このカイバ君がボタン一つで収縮可能なカバや長靴を履いた少女クロニコのボディを借りながら様々な惑星を旅するのがシリーズ構成の前半部分で、後半はディストピア的世界をテロで革命を起こす登場人物達のストーリーが展開されるというのが大まかなストーリーです。

北米版でしかBD化されておらず、中々見る機会の無い作品かもしれませんが非常に面白い作品ですので、はやく簡単に鑑賞出来る環境が整ってこのユニークな素晴らしいアニメーションの動きに満ちた稀有な作品が再評価される事を切望します。 

≪以下の記事に貴重なキャラ設定や美術設定があります≫

www.style.fm


四畳半神話大系(2010年)』
(監督・脚本・絵コンテ・演出・挿入歌作詞)f:id:callmesnake1997:20170225210707j:plain

 ≪上記画像は「湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects」より。企画書用の初期デザイン≫

カイバ』 で突っ走ってしまい、誰もついてこれなくなったのを危惧したのか、ノイタミナ枠の原作物というある意味コマーシャルな大道路線も普通に演出出来るという事も示したのが森見登美彦原作のTATAMI GALAXYこと『四畳半神話大系』です(インタビューとか読むと結構売れなかった事を気にしていたらしい)。

そしてこれが今年の『夜は短し恋せよ乙女』に繋がるのですから世の中面白いですね。フラッシュっぽいシンプルなアニメーションと大量のナレーションが組合わさった原作のイメージに徹した作品と言えるかと思います(読んでないので想像ですが)。『マインドゲーム』同様、時間が巻き戻るタイムリープの平行世界が徐々に重なっていく構成もよくできている楽しい作品です。

今だと新エンディング(やくしまるえつこではありません)で再放送中ですのでこれは簡単に見れるオススメ作品です。

あとこれも余談ですが上の『カイバ』の企画書向けの絵の左下には本作に登場する「もちぐま」の前身ともいうべきキャラクターが既に描かれてます。


スペース☆ダンディ シーズン2(2014年)』ー ”第16話 急がば回るのがオレじゃんよ”
(監督・脚本・絵コンテ)

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≪上記画像はhttp://space-dandy.com/episode/16/より≫

スペース☆ダンディ、それは宇宙のダンディである」という矢島正明さんのナレーションでお馴染みの傑作と呼んで全く差支えない傑作スペースオペラ、略してスペダンの1エピソードを湯浅さんが担当されています(さらにウニョンさんや三原さんも)。

懐中電灯で照らすと空間移動するというアイデアのガジェット(ドラえもんの例のファンファーレで登場する瞬間移動ライト「移動くん」というそのまんまな名前)が面白いのですがまずは頭だけ移動してしまい、残りの体だけ残った方はジェスチャーで何か伝えようとしても伝わらないというギャグが笑えます。

話しは魚そっくりの宇宙人(名前がネタバレですが「ベイクドオアボイルドオアカルパッチョ」)が活躍するグルメな焼魚回です。嵐の中を衛星から惑星に船で移動する際の波の描写がこれまた天才アニメーターの大平晋也さんです(いつもの感じです)。

しかし普通のテレビシリーズに湯浅さんがゲスト参加するとその個性が際立って浮いてしまうと思うのですがこのシリーズの中だとむしろ大人しいくらい普通に見れてしまいます。う~む恐るべしダンディ、クオリティ高すぎです(どうして売れなかったじゃんよー)。 

ちなみに同じ渡辺信一郎監督の『サムライチャンプルー(2004)』の”第九話:魑魅魍魎(Beatbox Bandits)”(走れメロスみたいな話の回です)でのクスリでラリったムゲンと青ハブのサイケなマインドバトルも湯浅さんですね。あとこれも余談ですがダンディと四畳半はエンディングがやくしまるえつこでオズとミャウの中の人も同じ吉野裕行さんなんですね。


『アドベンチャー・タイム(2014年)』ーSeason6 Episode 163「Food Chain」
(監督・脚本・絵コンテ) 

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僕の大好きなアドヴェンチャー・タイムの1エピソードを湯浅さんが担当しています。題材は湯浅さんの作品に度々出てくる食物連鎖の話です(題名もそのまんま)。ジェイクとフィンが小さな鳥→大きな鳥→細菌→植物(花)→イモムシという食物連鎖にキャラチェンジして食べたり食べられたりを体験します。

終盤フィンの眼が光源の人間映写機になってミュージカルシーンが始まるのですが、このネタは最近みたティム・バートンの『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』と被っていてちょっとびっくりです。

ちなみに『映画クレヨンしんちゃん ヘンダ―ランドの大冒険(1996年)』に出てくるヘンダ―城のデザインは『ナイトメア・ビフォア・クリスマス(1993年)』に出てくる木のシルエットを土台にしていているそうです。さらに『映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者(2008年)』でもティム・バートン風の真夜中の不思議な町のデザインをされています(*1)。結構前から湯浅さんともバートンはシンクロナイズドしていて興味深いです。

しかしこの作品はもともとカートゥーン志向の強い湯浅さんですので本家本元に乗り込んでも全く違和感ないですね。

 

尚、湯浅さんの今後の抱負は「皆に愛されるジ◯リみたいなファミリー向けの作品を作っていきたい(笑)」とのことですので今年の二本はその実現に向けた第一歩と言うことになるのかもしれません。

まぁ、ファンとしてはこれが大ヒットしたらまた『カイバ』みたいな奇想天外なSF物も作っていただきたいところです。

 

以上、天才アニメーション作家”湯浅政明”のおすすめ作品5選でした(※数えると四つしかありませんが以下にタイムリープして計5選という事で)。 

callmesnake1997.hatenablog.com

 

≪(おまけ)以下アドベンチャー・タイムのインタビュー記事≫

http://img.animate.tv/news/visual/2014/1419399892_1_1_161e491d6332336ebe5504cdc1b637a9.jpg

www.animatetimes.com

animeanime.jp 


≪(おまけ)湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Project≫

以下は395ページにも及ぶ”湯浅正明大全”の名に恥ぬ湯浅さんの主要な仕事を網羅した美しい水彩のスケッチ集(及びコメントもたくさん有り)です。少々値が張りますが普段見ることができない作品の土台となる貴重かつ大量のデザインと湯浅さんの溢れる才能をまとめて堪能できる良書となっており、おすすめの画集です。

*1:湯浅政明大全 Sketchbook for Animation Projects 復刊ドットコム (2016/12/17)