未知の映画監督ジョナサン・デミ(とフランソワ・トリュフォーとハイチの関係)

4月26日、やけに羊たちの沈黙のツイートが多いなとぼんやりとtwitterを眺めているとR.I.Pの文字が目に飛び込んでくる。まさかと思い他のツイートを見ると同じ事が書いてある。なんてこった、嘘だろ・・・と思う。twitterはいつも最新のニュースを届けてくれるので重宝するのだが最悪のニュースでさえも最新に届けてくれる。

どうやら本当のことのようだ。#R.I.P  #JonathanDemme

食道がんと心臓病の合併症により死去、73歳だという。早過ぎる、と思うと同時にそんなに年だったのかとも思う。 彼が『サムシング・ワイルド(1986年)』や『愛されちゃってマフィア(1988年)』で新進気鋭の”今最もホットな映画監督”として注目されていたのはつい先日のような気もしないでもないのだが1988年当時で既に45歳だったという。

彼の監督デビューまでの経歴をwikiで見てみる。

1944年2月22日ニューヨーク州ボールドウィン出身。フロリダ大学で獣医学を学ぶが、自分の能力に限界を感じ、中退する。大学在学中に学内新聞の映画評を執筆した経験を生かそうと、地方新聞の職を得るが、父親の紹介で映画会社の宣伝マンとなり、数年間働く。その仕事を通じてロジャー・コーマンと出会い、1971年から1976年までコーマンの下で働く。
初期はプロデュースや共同執筆をし、ロジャー・コーマン監督作品の『レッド・バロン』に参加し、インディーズ映画の監督となる。コーマンの設立した低予算インディペンデント製作会社ニューワールド・ピクチャーズで1974年『女囚刑務所・白昼の暴動』で映画監督デビューし、1976年の『怒りの山河』まで3本の映画をここで撮った。

 彼が監督デビューしたのは1974年、ジョン・カーペンタースティーブン・スピルバーグと同じである。この時点で30歳。ジョンカペやスピのように8ミリ少年でもないし大学の映画学科に行っていたわけでもない。映画会社のパブリシティを担当し、「ユーモア、セックス、アクション、バイオレンス、お好みで社会的主張を少々」を信条とするロジャー・コーマンの門下生として映画に関わる。僕はこの頃の作品は『怒りの山河(1976年)』しか見ていないが、これはまさに(ユーモアを除いた)コーマンの信条に沿ったような作品で、西部劇とも任侠映画ともいえる虐げられし抑圧者の怒りがアクションに転嫁する、通常であれば120分はかかりそうな物語を90分のダイジェストで、しかも一定のリズムで指揮された既に職人監督のようなクレバーさが漂う作品だった。

しかし『羊たちの沈黙(1990年)』でアカデミー賞監督になったとはいえJonathan Demme - IMDbに記載のあるテレビを含めた61本の監督作品の多くが日本未公開だということを考えるとジョナサン・デミはいまだ未知の映画監督でオスカー受賞前の30年前とさほど状況は変わっていないのでは?とさえ思えてしまう。数多いドキュメンタリーに関しても肝心なハイチに関するもの含め未公開作が多い。これでは追悼などできるはずはないではないか。幸か不幸か僕にとって彼は今でも未知の”今最もホットな映画監督”であり続けている。f:id:callmesnake1997:20170505190700j:plain

ジョナサン・デミフランソワ・トリュフォーとの関係

さて、彼が22かそこらの若い頃に映画の宣伝部に勤めていた時にトリュフォーと出会ったという面白いエピソードが以下のサイトに載ってましたので簡単にご紹介します(サイト内動画の最後の五分くらいでデミから直接聞けます)。

www.vanityfair.com

当時22歳かそこらでUAの宣伝担当だったジョナサン・デミは自分にとって神の如き憧れの存在であるフランソワ・トリュフォーが『黒衣の花嫁』のプロモーションのため来米してきた際にその世話を担当することになった。デミは興奮してゴダールのバッチ(トリュフォーのがなかった)をつけて彼を空港に出迎え、ロッセリーニからのメモを伝えたりした。

デミは『黒衣の花嫁』の原作者であるコーネル・ウールリッチウィリアム・アイリッシュ)を上映の際トリュフォーに引き合わせようとウールリッチに連絡を取った。当時(※恐らく死期に近い頃)ウールリッチは糖尿病による壊疽で方足を切断しており、外出することはなかったが、デミは彼のチームが全面サポートすると確約してなんとか彼との約束を取り付けた。デミは上映の当日ウールリッチの家へ特別な車で予備の車いすを用意して万全の体制で彼を連れ出そうとしたが、玄関で使用人に門前払いされ大声で呼んでも返事がなく、ドタキャンを食らった。

この話をトリュフォーにしたら興味深そうに楽しんでくれた。そんなこんなでトリュフォーが帰国する際空港でデミは映画ファン究極のバイブルである「映画術 ヒッチコックトリュフォー」の本にサインをもらった。そのサインには「可哀想な目にあったデミへ。君の最初の映画のために」と書いてあった。デミはその当時ただの宣伝マンで監督になる気なんてなかったが、トリュフォーは「そのうちなるよ!」と予言して別れた。

時は流れて1977年ニューヨーク映画祭にデミの四本目の映画『Handle with Care(別名citizen's band)』を上映の際、他のラインナップを見るとトリュフォーの『緑色の部屋』があってデミは喜んだ。デミはヘレン・スコット女史に上記の話をして忙しいスケジュールのトリュフォーにとりなしてもらった。そして「あなたが書いてくれたから、今こうして映画祭を一緒に楽しんでるんだ!」と伝えた。 

 デミが監督になる後押しをトリュフォーがしていたという運命的な出会いが二人にあったというなかなかいい話ですね。とにかく映画のためなら他人のためになんでもやるという二人の共通点、及びデミがトリュフォーの大ファンであったことがよくわかるエピソードです(余談ですが全く逆の立場で似たような話がM・ナイト・シャマランとデミの間にもあるので興味のある方はシャラマンの追悼ツイートを探してみてください)。

ちなみにデミのオールタイムベストにはトリュフォーの『ピアニストを撃て(1960年)』が入っています。デミがどれだけ『ピアニストを撃て』が好きかという事は『シャレード(1963年)』のリメイク版である『シャレード(原題:The Truth About Charlie)(2002年)』を見れば明らかです。直接的に『ピアニストを撃て』の画面が引用されていますし、『ピアニストを撃て』の主演であるシャルル・アズナヴールのCDが出てきたり、さらにゲスト出演して歌をうたったりします(ちなみにアンナ・カリーナも出演していてクラブでタンゴの歌をうたったりしています)。演出もスタンリー・ドーネン版ではなくてトリュフォーのように手持ちでせわしなく短いカットをつなげたヌーヴェル・バーグオマージュ的演出となっています。そして何よりデミ版『シャレード』はトリュフォーに捧げられた映画になっています。

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ジョナサン・デミとハイチの関係  

彼の死に際して、ジョナサン・デミのパブリシストによるとご家族は供花の代わりに移民の権利擁護に取り組むAmericans For Immigrant Justiceへの寄付を呼び掛けているそうです。尚、上記サイトにはデミへの「真の英雄、親愛なる友人」という以下の追悼記事が記されています(少々引用します)。

www.aijustice.org

私は30年前に初めてジョナサンと出会い、私たちの国の最も脆弱な移民のために向けられた彼の無限のエネルギーと情熱にうたれました。
1994年に、彼は米国市民の親と一緒にハイチで孤立した200人の子供たちを再会するのに尽力しました。
1995年、彼はグアンタナモに拘束された100人の孤児のハイチ人の子供のための人道的な仮釈放を受けるため、ハリウッドの「Aリスト」を集めました。
後にハイチの女性と子供たちが移民の拘留中に酷い状況で疲れていたことを知った後、彼は記者会見を開催するためにマイアミに飛行機に乗って解放を確保しました。
彼はまた、賞を受賞したドキュメンタリーを通じて、ハイチの難民の窮状について光を照らすために努めました。 

何故デミとハイチなのかという事に関しては大場正明さんの以下の1989年の貴重なインタビューの中で語られています(有り難いことに無料で読めますので参照ください)。c-cross.cside2.com

このインタビューでのデミの発言は移民問題が問題になっている今だからこそ重く感じられます(こちらも少々引用させて頂きます)。 

というのも、アメリカにはハイチの正しい情報がなかなか伝わってこないために、あの国の人々がどんなに素晴らしいかがわかってないんだ。わたしは、ハイチの人々が民主主義を獲得するためにどれほど奮闘してきたのかということに、 アメリカ人ひとりひとりがもっと関心を持たなければいけないと思っているんだ。なぜならアメリカ政府は、国民に対して間違ったお金の使い方をしているからだ。

その映画とハイチへの関心はひとつのものだと思う。というのも、わたしは文化や人種、国と国との関係ということに個人的にとても強い関心を持っているんだ。異なる国の人々がうまくやっていくことを考えないと、人類が生き残っていける希望がなくなってしまうのはみんなわかっているはずだ。 そして、このふたつの小説は、どちらも異なるタイプの人物が無理やりひとつの状況に押し込まれて、そのなかで力を合わせて苦境を乗り切るというような物語なんだよ。

デミの長年の活動にも関わらず30年前以上に無関心が進んでしまった現在の状況は非常に残念としか言いようがありません。

尚、同サイトには『サムシング・ワイルド』と『愛されちゃってマフィア』の素晴らしい評がありますので、この二本の傑作に思いを馳せてあわせてご参照いただければと思います。

c-cross.cside2.com

 

以上引用ばかりになってしまいましたが「未知の映画監督ジョナサン・デミフランソワ・トリュフォーとハイチの関係」のお話しでした。今後彼の素晴らしい映画達が少しでも多く公開され、一本でも多くの作品が見れる状況が来る事を望んでやみません。

 

(※以下はデータ的なものを補足)

 

  【ジョナサン・デミ オールタイムベスト】

①『アントニオ・ダス・モルテス』“Antonio Das Mortes”(1969/ブラジル)
      監督:グラウベル・ローシャ
②『暗殺の森』“The Conformist”(1970/伊・仏・西独)
      監督:ベルナルド・ベルトルッチ
③『ドゥ・ザ・ライト・シング』“Do The Right Thing”(1989/米)
      監督:スパイク・リー
④『ガートルード』“Gertrud”(1964/デンマーク
     監督:カール・テオドール・ドライヤー
⑤『キング・コング』“King Kong”(1933/米)
     監督:メリアン・C・クーパー&アーネスト・B・シューザック
⑥『神々の深き欲望』“PROFOUND DESIRES OF THE GODS”(1968/日本)
     監督:今村昌平
⑦『年月を数えた夜』“Al-mummia”(The Night of Counting the Years)(1969/エジプト)
     監督:シャディ・アブデル・サラム
⑧『ロビンとマリアン』“Robin and Marian”(1976/米・英)
     監督:リチャード・レスター
⑨『ピアニストを撃て』“Tirez sur le pianiste”(1960/仏)
     監督:フランソワ・トリュフォー
⑩『オズの魔法使い』“The Wizard of Oz”(1939/米)
     監督:ヴィクター・フレミング

 

ジョナサン・デミ フィルモグラフイー(Jonathan Demme - IMDbより)】

  • 1974 『女刑務所・白昼の暴動/Caged Heat』
  • 1975 『クレイジー・ママ/Crazy Mama』 
  • 1976『 怒りの山河/Fighting Mad』 
  • 1977 Handle with Care 
  • 1978 『刑事コロンボ 「美食の報酬」/Columbo (TV Series) (1 episode) - Murder Under Glass』 
  • 1979 Last Embrace 
  • 1980 Melvin and Howard 
  • 1982 American Playhouse (TV Series) (1 episode) - Who Am I This Time? 
  • 1984 Talking Heads: Once in a Lifetime (Live) (Video short)
  • 1984 Alive from Off Center (TV Series)
  • 1984 Swing Shift
  • 1984ストップ・メイキング・センス/Stop Making Sense』 (Documentary)
  • 1985 UB40 and Chrissie Hynde: I Got You Babe (Video short)
  • 1985 Now That's What I Call Music 6 (Video) (video "I Got You Babe")
  • 1985 New Order: The Perfect Kiss (Video short)
  • 1985 Artists United Against Apartheid: Sun City (Video short)
  • 1985 Survival Guide (TV Movie)
  • 1980-1986 Saturday Night Live (TV Series) (3 episodes)
    - Harry Dean Stanton/The Replacements (1986) ... (segment ": "Say No")
    - Pee Wee Herman/Queen Ida & The Bon Temps Zydeco Band (1985) ... (segment "Say No")
    - Elliott Gould/Kid Creole & the Coconuts (1980) ... (segment "Gidgette Goes to Hell")
  • 1986 『サムシング・ワイルド/Something Wild 』
  • 1987 Swimming to Cambodia
  • 1987 Trying Times (TV Series) (1 episode) - A Family Tree 
  • 1988 Haiti Dreams of Democracy (TV Movie documentary)
  • 1988 『愛されちゃって、マフィア/ Married to the Mob』
  • 1989 New Order: Substance (Video short) (video "The perfect kiss")
  • 1990 Red Hot and Blue (TV Movie) (segment "In The Still Of The Night")
  • 1991 『羊たちの沈黙/ The Silence of the Lambs』 
  • 1992 Cousin Bobby (Documentary)
  • 1993 『フィラデルフィア/Philadelphia 』
  • 1994 The Complex Sessions (Short)
  • 1995 Murder Incorporated (Video)
  • 1997 SUBWAYStories: Tales from the Underground (TV Movie) (segment "Subway Car from Hell")
  • 1998 Storefront Hitchcock (Documentary)
  • 1998 『愛されし者/ Beloved』
  • 1998 The Oprah Winfrey Show (TV Series) (1 episode) - The Cast of Beloved 
  • 2000 The Pretenders: Greatest Hits (Video documentary) (video "I Got You Babe") 
  • 2001 Bruce Springsteen: The Complete Video Anthology 1978-2000 (Video documentary) (videos "Streets of Philadelphia", "Murder Incorporated", "If I Should Fall Behind")
  • 2002 『シャレード/The Truth About Charlie』
  • 2003 The Agronomist (Documentary)
  • 2004 『クライシス・オブ・アメリカ/ The Manchurian Candidate
  • 2006 『ニール・ヤング/ハート・オブ・ゴールド 〜孤独の旅路〜 / Neil Young: Heart of Gold』 (Documentary)
  • 2007 Right to Return: New Home Movies from the Lower 9th Ward (TV Mini-Series documentary)
  • 2007 Jimmy Carter Man from Plains (Documentary)
  • 2008 『レイチェルの結婚/ Rachel Getting Married』
  • 2009 Neil Young Trunk Show (Documentary)
  • 2010 Tavis Smiley Reports (TV Movie) (segment "Been In The Storm Too Long")
  • 2011 I'm Carolyn Parker (Documentary)
  • 2011『 ニール・ヤング/ジャーニーズ /Neil Young Journeys』 (Documentary)
  • 2011 A Gifted Man (TV Series) (1 episode) - Pilot (2011)
  • 2011 Enlightened (TV Series) (2 episodes) - Lonely Ghosts (2011)- Sandy (2011)
  • 2012 Kenny Chesney: Unstaged (Documentary)
  • 2012 Enzo Avitabile Music Life (Documentary)
  • 2012 P.O.V. (TV Series documentary) (1 episode)
    - I'm Carolyn Parker: The Good, the Mad, and the Beautiful 
  • 2013 A Master Builder
  • 2014 Line of Sight (TV Movie)
  • 2013-2014 The Killing (TV Series) (2 episodes)
    - Eden (2014)
    - Reckoning (2013)
  • 2015 What's Motivating Hayes (Documentary short)
  • 2015 Another Telepathic Thing
  • 2015 『幸せをつかむ歌/Ricki and the Flash
  • 2016 The New Yorker Presents (TV Series documentary) (1 episode) - Pilot 
  • 2016 Justin Timberlake + the Tennessee Kids (Documentary)
  • 2017 Shots Fired (TV Series) (1 episode) - Hour 6: The Fire This Time (2017)

 R.I.P  JonathanDemme


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