『キングコング対ゴジラ(1962年)』 ~ チェレンコフ放射の青い光(4K リマスター)

チェレンコフ放射 - Wikipedia

チェレンコフ放射チェレンコフほうしゃ、Čerenkov radiation、Cherenkov radiation)とは、荷電粒子が物質中を運動する時、荷電粒子の速度がその物質中の光速度よりも速い場合にが出る現象。チェレンコフ効果ともいう。このとき出るチェレンコフ光、または、チェレンコフ放射光と言う。

臨界事故#青い光 - Wikipedia

核分裂の臨界によって空気中チェレンコフ放射が起きる可能性は実質的にはない。青い閃光の大部分をチェレンコフ光が占めるような唯一のケースは、臨界が水中または完全に溶液(再処理プラントの硝酸ウラニルなど)の中で起きた場合で、このような光を見ることができるのは溶液の容器が開いていたか透明だった場合のみである

 検出方法 | スーパーカミオカンデ 公式ホームページ

 ニュートリノが叩き出した荷電粒子が、水中の光の速度よりも速く水中を走ると、チェレンコフ光が放出されます。この現象は、水面を進むアヒルが、水面波の速度よりも速く進んだときに斜めの波が出る現象に似ています。
放出されたチェレンコフ光は、荷電粒子の進む方向に対して円錐形に放出されます。水タンクの壁に取り付けられた光電子増倍管は、このチェレンコフ光をキャッチします。


なぜいきなりチェレンコフ放射の話かと申しますと、まず1955年の『ゴジラの逆襲』で雪崩に巻き込まれ氷山に埋もれていったゴジラはその7年後の1962年の『キングコング対ゴジラ』まで氷山の中で冷凍冬眠して生き長らえます。そしてこの映画の冒頭部分で北極海の謎の水温上昇を調査する国連原子力潜水艦シーホーク号がその青白く光る謎の氷山を発見し、説明を求められた博士がチェレンコフ光のようです。原子炉に発する光です。よく似てます」と解説してガイガーカウンターが上昇する、というシーンがあるからなのです。

つまり7年前に氷山に埋もれたゴジラ北極海に漂流して冷凍冬眠しつつもその原子炉的な発電作用か何かでその海水温を上昇させ、そこにノコノコと調査にやってきたカモネギ的な国連調査団の“原子力”潜水艦がその寝起きの餌食となり、長い冷凍冬眠から目覚めて原子力でお腹いっぱいになったゴジラ帰巣本能に駆られたアホウドリサケの如くベーリング海峡を抜けてアリューシャン列島を一気に南下して日本に襲来する、というのが本作におけるゴジラ登場のシナリオなのです(←ホントですよ〜!見た人は知ってると思いますけど)。

ちなみにWikiによると通常チェレンコフ放射は(原子炉やスーパーカミオカンデのような水タンクのある施設内の)伝播速度が遅くなる水中において発生するものであって空気中で発生することは実質的にないとされてきました。が、つい最近発表された研究によりますとそのような水中でなくてもグラフェン表面上や某体内で発生/観測が可能であるという物理法則が発見されたそうです。

www.trendswatcher.net

MIT、チェレンコフ放射によるグラフェンの電気-光変換現象を解明 | SJN News 再生可能エネルギー最新情報 

つまりこのニュースはゴジラ映画初のカラー作品である本作において、水中でもないのにゴジラの背ビレがチェレンコフ放射青白く光って「放射熱線(火炎)」を放つという当時の空想科学小説的な設定が、半世紀以上も経って陳腐化するどころか逆にその描写の正当性を図らずも証明してしまった、という事になるのではないでしょうか。小説は事実より奇なり(逆?)というか時空を超えた映画史と現実世界の物理法則の数奇な巡り会わせですね。

まぁ、現実世界の物理法則がどうであれゴジラ映画初のカラー作品なのですから別にマグマのようにく光って「放射熱線(火炎)」した方が分かりやすいという選択肢もあったかと思うのですが(*1)、水爆⇒放射能⇒原子炉⇒チェレンコフ光⇒青色という当時の常識的な科学の論理に基づいた設定でチェレンコフ放射の青い光を選択したという点はゴジラ映画初脚本となる関沢新一さん始め当時のスタッフのSFマインドの高さと言えます。

しかしこの映画は戦後の傷跡が残る時代の反戦映画ともいえるシリアスなドキュメントタッチの初代『ゴジラ(54年)』から8年も経過しているとはいえ、高度成長期の時代の流れのせいかガラッと雰囲気が変って東宝コメディ色が強い娯楽作品になっていますね。というか高島忠夫が主演な時点でコメディー映画ですよね。コメディーであり怪獣映画でもあり純粋娯楽映画です。

監督の本多猪四郎さんは以前書いたガイ・ハミルトン同様、作家の刻印の無いプロフェッショナルな職人監督さんで、時代に沿った娯楽映画を器用にこなす方ですので、この東宝30周年記念の超大作(キング・コングを登場させるにあたり、R.K.Oに膨大な権利料を払ったとか)に対しても会社の要望に沿った娯楽映画を器用にこなしたという事なんでしょうね。

このへんの器用さに関しては作家性の塊のような親友の黒澤明とは真逆とい言っていいタイプの演出家さんだと思います(余談ですが二人の交友関係とその資質の違いに関しては『イノさんのトランク~黒澤明本多猪四郎、知られざる絆』というドキュメンタリーが面白くてオススメです

作家の刻印が無い職人監督というのは別に演出が無いという意味ではなくて自然な演出で観客に気付かせないということになります。よく言われるのが目線の演出で、これが不自然で観客に気付かれると娯楽映画、引いては怪獣映画としては失敗となります。本多監督がどのような繊細さで50メートル近いゴジラに対して目線の演出をつけているか注目して見ると何度か見たはずのゴジラ映画がまた違って見えるかも知れません。

尚、この映画は最近4Kリマスターされ、TVでも(2Kダウンコンバートですが)放送されておりますので、ご覧になる機会があればそのまるで公開初日のプリントように美しいチェレンコフ放射の青い光と共に本多監督の繊細な目線の演出にも注目してみてはいかがでしょうか。 

 

*1:実際『ゴジラ2000 ミレニアム(1999年)』、『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦(2000年)』では赤い「放射熱線(火炎)」が使用された