『雪の喪章(1967年)』
傑作『眠狂四郎無頼剣 (1966年)』の次に撮られた作品で、同じ年に『古都憂愁 姉いもうと』と『なみだ川』が撮られておりますので三隅研次の女性映画メロドラマ三部作の第一弾とでもいうべき作品でございます。
原作は金沢出身の女流小説家である水芦光子。wikiのプロフィールによりますと父が金箔商経営するも高等女学校4年の在学中に倒産、大阪に移住して再起を図るとのことですので、ある程度この物語のバックボーンになっているのでございましょう。
キャストは主演が若奥様役の若尾文子様、その旦那が福田豊土、旦那の妾が中村玉緒、若尾様に一途な愛を捧げるのが奉公人の天知茂で、前年の『処女が見た(1966年)』に続いて若尾様の美しさを愛でる普通のスター映画(クローズアップ多し!)なのでございます。
スタッフは脚色が八住利雄、撮影が増村組の小林節雄さんでこれはいつもの大映京都の作品ではなくて大映東京撮影所に三隅さんが出張して、ほぼ全編セットで撮られた作品でございます。
お話に関しましては昼ドラ的というか大映ドラマ的というか様々な不幸が降りかかっても耐え抜く女性の一代記でございます。ただ、天知茂が「嵐が丘」のヒースクリフ的な役割を演じるのかと思いきや特にそのようなドロドロとした復讐劇が展開される訳でもございませんし、また旦那の方も中村玉緒の妾をお手伝いとして同じ家に囲って子まで産ませて一緒に育てるという昨今の不倫騒動もブッ飛ぶインモラルな展開でドロドロとした愛憎劇が繰り広げられるかと思いきや特にそういう訳でもございません。登場人物は基本善人ばかりで情念を内に秘めたまま因果応報的に運命に翻弄されるという、三隅研次らしいクールでストイックな和風テイストのビザール・ラヴ・トライアングルな女性一代記なのでございます。
まずこの映画の冒頭は『女系家族』と同様に喪服姿の若尾様より始まります。嫁ぎ先の大旦那様の一周忌の法要なのですが若奥様役の若尾様は一ヶ月前の大雪の中の結婚式と初夜の事を回想して微笑んでいらっしゃいます(この大雪の中、喪に服す事と結婚式との対比が後の最終的なラストの伏線なのでございます)。現代劇のメロドラマという事で大映京都の様式美の世界は影を潜め、劇中(戦前から戦後にかけて)20年近く経っておりますが、ひたすらお美しい若尾様のクローズアップを堪能できる映画なのでございます。(注:以下ネタバレというか画像バレでございます)
<1周忌の法要で一ヶ月前の結婚式を思い出す若尾様>
<足のフェチズム>
以下は奉公人役の天知茂の本作唯一のラブシーンでございます。大雪の中、あこがれの若奥様の足袋を脱がせておみ足に顔をスリスリしてほくそ笑む異常性癖の男に襲われる若尾様...に見えるかもしれませんがこれは単に夫の不倫にショックを受けて飛び出して遭難した若奥様を懸命に介抱する一途な奉公人のシーンなのでございます(申し訳ございません、つい脳内妄想が先走ってしまいました。若尾様のおみ足に魅せられて思わず襲いかかってしまうのは『処女が見た』の若山富三郎の方でございました)。
<三隅研次渾身の金箔が舞う火事のショット>
市川昆の『炎上(1958年)』を意識して本物の金箔を使、ひらひら舞うモノが画面を埋め尽くす美しいシーンでございます(『斬る(1962年)』でも殺陣の後に血を拭った紙がひらひら舞う似たようなシーンがございますので好きなのでございましょう、ひらひら)。
<ひたすらお美しい若尾様のクローズアップ>
劇中で20年近く経っているはず...でございますが、この時代に特殊メイクが無かったことを感謝せねばならないのでございます(というか天知茂の方は老けメイクですので確信犯的にお美しいままなのでございます)。
<三隅研次渾身の金屏風+影のショット>
撮影時かなり粘ったらしく、この映画の堂々たる勝負カットでございます。
というわけで、今宵はここまでに致しとうござりまする。
(画像は全て© KADOKAWA)
(③へ続く)
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