クリント・イーストウッド映画の傾向と対策【死者の霊に耳を傾けましょう編】

今ではすっかり巨匠となってしまったクリント・イーストウッド ですが、スキがあれば死者の霊に耳を傾ける、あるいは死者の霊そのものが主役となるというちょっとキワモノ的というか丹波哲郎的な映画を撮ってしまうという傾向があります。以下そのいくつかを見てみましょう(※基本ネタバレです)。 


『荒野のストレンジャー/ High Plains Drifter(1973年)』

『ペイルライダー/Pale Rider(1985年) 』

恐怖のメロディ(1971年)』の次に撮った第二回監督作品がこの怪談西部劇こと『荒野のストレンジャー』です。別に歳をとって死を意識し始めたから丹波哲郎化したわけではなく、初期からなんですよ。好きなんでしょうね、こういう話。

蜃気楼の中から台地を彷徨う死者の魂がイーストウッドに実体化して湖畔の町を訪れ、その町に不遜な独裁者的混乱をもたらした後に(ここまではコメディタッチといえます)、過去に鞭でなぶり殺された保安官が自分を殺した町の住民たちに復讐して(この辺りは音楽からして既にホラーです)、蜃気楼の中に帰っていくという異色の西部劇です。彷徨う死者の魂が別人(幽霊?)にチェンジリング・降臨して復讐を果たすといういかにも怪談チックな話です。

御大は毎回違う題材を探していてると言いつつも結局同じような傾向の話に偏ってしまうという、いまいちよく分からんお人です。よく分からんというと、よく分からんのにこれは傑作としか言いようがない作品だという事はよく分かるのが『荒野のストレンジャー』と同じような話といえる『ペイルライダー』です。

少女が祈りを捧げると山から凄腕のガンマンが降臨します。少女の祈りを神が聞き入れるというのは『大魔神』と同じストーリー展開なんですけどイーストウッドの場合は神は神でも魔神ではなく死神の神父です。西部劇らしからぬ寒々とした山村を舞台に霊界から遣わされた死神のようなイーストウッドが雪山から現れ、悪者を皆殺しにして雪山に帰っていきます。これは数あるイーストウッドの映画の中でも一番好きな映画かもです( 理由はよく分からんのですが)。


『真夜中のサバナ/Midnight in the Garden of Good and Evil(1997年)』

これは数あるイーストウッドフィルモグラフィーの中でも一番異色といえる作品ではないでしょうか。御大の出演は無しで製作、監督、音楽に専念したかなり本気度高いはずの作品(155分)なのですが...。旅行ライター(ジョン・キューザック)がアメリカ南部の歴史都市「サバナ」を訪れ、土地で出会った”奇妙な”人々たちの交流と、独身の大富豪(ケビン・スペイシー)が被告人となった美青年(ジュード・ロウ!)の殺人事件が描かれます。とにかく犬の首輪だけ持って散歩する人やら、糸で縛ったハエを体につけた人やら、死者と対話するヴ―ドゥーの霊媒師やら、ドラッグクイーン(レディ・シャブリ)やらデビッド・リンチでもないのに怪しい人達がてんこ盛りです。衝撃のラストに至っては「そ、そ、それで、えーんかい、イーストウッド!」とツッコミたくなること必至です。原作通りなのかもしれませんが、こういう映画を撮る人なんですよね、イーストウッドって。 


硫黄島からの手紙/Letters from Iwo Jima(2006年)』

父親たちの星条旗』の資料を集める際に敵(死者)の側に興味を持っていかれ、無謀にも同時製作を敢行してしまったと言われる作品です。イーストウッドの作品でこれほど死臭の漂う作品は他にありません。 『父親たちの星条旗』だけでも独立した作品となっていますが、この双子の映画とワンセットで更に凄まじい一本の戦争映画として完成されます。真摯に死者と対話する映画ですが製作がスピルバーグということもありその残酷描写もリアルで過酷です(子供の頃に見ていたらトラウマ確定かと)。

原作があるわけでもないのにかなり入念なリサーチにより日本側の死者からの手紙に耳を傾けた映画になっています。日本映画ではありませんが全編日本語で役者もほぼ日本人です(本当は日本人の監督で黒澤に頼みたかったとか)。準主役ともいえる嵐の二宮和也さんが意外といい味出してますね。


ヒア アフター(2010年)』

この映画はRotten Tomatoesで46%の低支持率みたいですが、イーストウッドはもともとこういう映画を撮る人なんですよ。まさに死者と対話する映画の集大成とも言える映画です。津波にあって臨死体験する女性キャスターと、一卵性双生児の兄を亡くした少年と、手を握るだけで死者の声を聞くことができる呪われた霊媒士達の物語が三つ平行して語られます。そしてパリとロンドンとサンフランシスコの三都の物語がディケンズによって最終的に結びつけられます。「死者と語らねば、生者を理解できない」というのは上記『真夜中のサバナ』のセリフですが、この映画も同じですね。手を握るという触覚的行為を通じて死者の声に耳を傾け、最終的に三人の生者が結び付いて救いがもたらされます。

あと余談ですがマット・デイモンと無駄にエロティックな目隠しプレーをする美人女優(ブライス・ダラス・ハワード)がロン・ハワードの娘(←似てねー)と知ってびっくりです(『チェンジリング(2008年)』はロン・ハワードの製作ですし、狭い世界ですね)。


以上クリント・イーストウッド映画の傾向と対策【死者の霊に耳を傾けましょう編】 でした。

今回の傾向と対策は死者の霊たちがあの世からこの世へやってきたら(コスプレじゃなくて)耳を傾けて話を聞きましょう(ヒア アフター)ということですね。

それではハッピー・ハロウィン!

 

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