『ラロ・シフリンとCTIレーベルのおすすめアルバム50選』 ~ 世界の全ての音楽は越境してクロスオーバーする

ラロ・シフリンというと『ダーティハリー(1971年)』、『燃えよドラゴン(1973年)』といった映画や『スパイ大作戦(1963-73年)』、『刑事スタスキー&ハッチ(1975-79年)』といったテレビシリーズの作曲家として有名ですが、ジャズ関連の作曲家、編曲家、ピアニスト、指揮者としても様々な作品に携わっています。

彼の略歴はwikiによりますと1932年のアルゼンチン出身で6歳からダニエル・バレンボイムの父(!)からピアノを習い、大学まではアルゼンチンでクラシックを学び、1950年代初頭にパリに留学、ジャズ・ピアニスト・アレンジャーとして活動を開始し、1960年には渡米してディジー・ガレスピー楽団のピアニスト兼アレンジャーとして参加し頭角を現すという、世界を股にかけたなんともコスモポリタンクロスローバーな音楽家です。

つまりラロ・シフリンの特徴ともいえるクロスオーバーミュージックラテン(ボサノバのようなブラジル音楽も)、ヨーロッパ(クラシック)、アメリカ(ジャズ、ポップス)といった様々な国の音楽を消化した上で、さらにシンセサイザーのような電子音楽の黎明期にもクロスオーバーして生まれた先進的な音楽と言えます。

さて、このラロ・シフリンのクロスオ―バー振りと呼応するのがクリード・テイラーがプロデュースするCTIレコードです。CTIは録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダー、ジャケットデザインのピート・ターナーを擁し、主に70年代初期にクロスオーバー(フュージョンの前身)ブームを作ったジャズレコードレーベルです。

ストレート・アヘッドなジャズの時代から一歩先をいくクロスオーバーミュージックへ発展させながらも、本格的なフュージョンブームが来る70年代後半には破産して売却されたのですから特定の時代に太く短く輝いたレーベルといえます。コアなジャズファンからもコアなフュージョンファンからも軽いというかナンパな音楽と見られがちだったと言われていますが、現在ではサンプリングの元ネタの宝庫になっている事もあり、かなり再評価されています。

まぁ、クロスオーバーミュージックといっても、だいたい音楽ってほっといても勝手に国境を越境して混ざり合って影響し合うものですので全ての音楽はクロスオーバーした結果と言っても過言ではないと思うのですけど、僕にとってはこの時代の音楽の混ざり具合が機械に頼り過ぎる前のちょうど一番いい時期の心地好いグルーヴの音楽なんです。

ではざっくり以下ラロ・シフリンCTIレーベルの作品群をリンクのみですがご紹介します(おおよそamazon内で試聴できるようです。あとほんの5年前の40周年記念盤が一部高値でぼったくられていますが、こういうのは音楽配信で淘汰して欲しいですね)。


ラロ・シフリン

ラロ・シフリンは1976年と翌77年に二枚のアルバムをCTIより出しています。有名な原曲(『ジョーズ』とかバッハの『トッカータとフーガ』とか)を一体何の曲なのかよく分からなくなるほどノリのよいディスコティックなクロスオーバーミュージックに仕上げている快作になってますが、このシフリンとCTIのクロスオーバーは必然といえる楽しい仕上がりです。

後の三枚はCTIではありませんが映画絡みベスト盤と定番の二枚。ラロ・シフリンの音楽が入れば傑作映画の魅力もさらに二割増しです。とにかく恰好良くてエキゾチックでノリの良いタイトル曲はもちろんのこと、ダーティ・ハリーのラストのように深い余韻を残すメロウな電子ピアノ曲も忘れ難いですね。他はボサノバも含む初期のムーディなジャズピアノ物やジミー・スミスルイス・ボンファ等のプロデュ―ス作品もオススメです。 

  

とはいいつつも以下discogsによると彼のアルバムは全部で222枚という膨大なディスコグラフイーになるようです。僕が知ってるラロ・シフリンの仕事はたかだかほんの一部ですね。

www.discogs.com


オーケストレーション音楽

CTIのアルバム群でのアレンジメントで有名なのはドン.セベスキー、ボブ・ジェームス、デオダート辺りでしょうか。どの作品も流麗なオーケストレーションによりジャズとクラシックがクロスオーバーして心地よい世界を作り出しています。

中でもおススメなのは「コンテンポラリー.アレンジャー」という有名な本も描いたドン・セベスキーの珍しい自身名義の作品「ジャイアント・ボックス」です。有名なジム・ホールのアランフェス協奏曲もセベスキーのアレンジによる傑作ですね。

  


ブラジル音楽

やはりブラジル経由で直輸入されたボサノバ等のラテン音楽がクロスオーバーするテイストはCTIに欠かせないです。CTIボサノヴァをアメリカで普及させたということになっていますが、これは自然に心地よい音楽とそれを奏でるミュージシャンがクロスオーバーした結果ということなのでしょう。

      


ギター奏者

CTIのギタリストといえばまずはジョージ・ベンソンです(別にCTIじゃない作品もどれも素晴らしいですが)。1969年には『The other side of Abbey Road』なんてまるごとビートルズカバーを出してますし、ロック・ポップスとは既にクロスオーバー済みですね。

       


ボーカル

様々なジャズボーカリスト達の美しくソウルフルな歌声もCTIの美しいアレンジに映えます。 

オススメはジャッキー&ロイでソフトロックかと見紛うごときドリーミーでカラフルなストリングアレンジが夫婦デュオのスキャットと共にクロスオーバーします。

       


サックス奏者

グローヴァー・ワシントン・ジュニアはクリード・テイラーに見出されサブレーベルのクードゥ(KUDU)から1971年にデビュー、1977年の『Live at the Bijou』まで8作出してますがどれも素晴らしいアルバムです(別にCTIじゃない作品もどれも素晴らしいですが)スタンリー・タレンタインジョー・ファレルの作品もジャケット写真含めてCTIを代表する作品ですね。

    


トランペット奏者

意外な人達もCTIで作品を残しています。チェット・ベイカーとかおそらく異色作になるのでしょうが、CTIとのクロスオーバーにより新しい魅力が引き出されています。

  


フルート奏者

ヒューバート・ロウズはCTIで8枚アルバムを出しているようですが以下は手に入りやすい三枚です。クラッシックのジャズ化された曲が有名ですが『シカゴ・テーマ』のような疾走感溢れるファンキーな曲もカッコ良過ぎです。

 


ヴィブラフォン奏者

ミルト・ジャクソンの中では特に代表作ということでもないのでしょうが、ヴィブラフォンの響きが一層美しい音楽が楽しめます(口には出しませんがMJQより好きだったりします)。

  


その他

『California Concert: the Hollywood Palladium』はまさにCTIオールスターズによる1971年7月18日の若さ溢れる真夏のライブです。まーこれは凄いとしか言いようがありませんね。圧巻の2時間34分です。参加メンバーはジョージ・ベンソン/ ロン・カーター/ ビリー・コブハム/ ハンク・クロフォード/ ジョニー・ハモンド/ フレディ・ハバード/ ヒューバート・ロウズ/ アイアート・モレイラ/ スタンリー・タレンタイン、です。この時点で既にCTIサウンドは確立されているとも言えます。

フューズ・ワンはこれまたオールスター編成のスーパーバンドです(これは1980年の作品で完全にフュージョンです)。

その他全く違う楽器のリーダーアルバムを聞いてもCTIテイストに統一されているというのは面白いですね。