“永遠の名作”という最大公約数的な縛りのためなのか大して面白く無い映画が大半を占めている印象がある「午前十時の映画祭」ですが、たまに本当に面白い映画も上映してくれますので要注意です。本作がまさにその面白い映画ですので見ていない人はまずは劇場に駆け付けましょう。見逃した人は今後生きているうちに劇場で観れる機会はめったにないかと思いますので、これから一生後悔して生きていく事になります。
なんて冗談はともかくとして、この映画は本当に面白いです。理由としては監督として独り立ちする前のウォルター・ヒルによる脚本のオチが素晴らしいとか(マックィーンがジム・トンプソンから差し替えた)、
二週間で作らされたクインシー・ジョーンズの音楽が心地良いとか(マックィーンがジェリー・フィールディングから差し替えた)、
ショットガンは紙袋に包まれたままぶっ放すべきだと勘違いさせる程スティーブ・マックイーンの銃さばきがカッコ良いとか(マックィーンは元海兵隊員で銃に慣れており、このパトカーを破壊するシーンも彼のアイデアだとか)、
川遊びやシャワーで濡れ髪のアリ・マッグローが美しいとか(この映画をきっかけにマックイーンがロバート・エバンズから略奪愛してW不倫の末二人は結婚した)、
等々色々とあるのですが、まずは監督サム・ペキンパーの倒錯的な欲望がそのまま映画的なフォルムを形作る独特の映画時空が最初から最後まで弛緩する事なく繰り広げられるという一点につきます(本人は気に入いってないらしいですが)。以下その独特なペキンパー時空の必殺技を見てみましょう。
ペキンパー時空その①:時間が止まる
文字通り時間が止まってスチル写真みたいになる瞬間があります。この映画だとオープニングタイトルでこの必殺技が炸裂します。なんか単に刑務所の外にいる鹿とかにも適用されてしまいますので、単にそういう事やりたいだけなのねとつい思ってしまいますが、『ワイルド・バンチ(69年)』や『戦争のはらわた(77年)』でも同じような事をやっていますのでペキンパー時空ではおなじみの光景なのです。
ペキンパー時空その②:予知夢的に出来事が先行する
これも文字通り予知夢的に出来事が先行したシーンがインサートされます。例えばまだマックイーンが刑務所内に服役中で織機の機械音が響き続けるオープニングのシーンにアリ・マッグローとベッドで戯れるカットが何度かインサートされます。この時点では外に出た後を妄想してたイメージシーンなのかな程度にしか思いませんが、その後出所した後に実際に二人がベッドで戯れるシーンが展開されて実際の行為が予言されていた事が分かります。
また川遊びで二人戯れるシーンもまずは最初に予知夢的にインサートされます。これも妄想してるイメージシーンなのかなと思うと実際に二人が濡れた服でモーテルに帰ってくるシーンになり、実際に川に飛び込んだ事が分かります。よって予知夢的に先に示される予言的なイメージショットは後で実行されるリアルイベントという事になります。親切にもこれから起きる出来事を先に教えてくれている訳ですね。