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ロン・ハワード映画の傾向と対策【役者から職人監督編】 ~ 『インフェルノ(2016年)』

(※以下新作映画情報的な話は特にございませんので悪しからずです)

2016年は公開のタイミング差があるとはいえ、ロン・ハワードの新作が三本も公開されるという稀有な年になります。プログラムピクチャーの時代でもないのにこのハイペース。さすがアメリカ映画界きっての職人監督です!。

callmesnake1997.hatenablog.com

なんせロン・ハワードは芸能一家に生まれて5歳の頃から子役として活動し、監督としては1977年に23歳の時に撮ったデビュー作『バニシングIN TURBO』から既に40年近くのキャリアを誇るショービズ界の大ベテランですので経験値も高く仕事が早いのでしょう。

僕はおおよそ優れた映画監督には以下の二つのタイプがあると分類しています。自分の個性が前面に出てしまう作家タイプの人と個性を殺して作品の素材に殉じる職人タイプの人です。

今のハリウッドだと良くも悪くも前者のタイプばかりで後者のタイプは絶滅の危機に瀕していると思うのですが、ロン・ハワードはもちろんその数少ない職人タイプの一人です。

個性を殺して作品の素材に殉じるという行為はある意味映画の透明度を高めて滑らかにしてしまう一方で、映画史に残るような強烈な印象を残すシーンのような突出した個性は排除されてしまいます。

ロン・ハワード作品の職人的ともいえるその印象の薄さ(頭も)はそのせいかと思いますが、まずはそのルーツとも言うべき役者時代の出演作から見てみたいと思います。


 役者時代のロン・ハワード

芸能一家であるロン・ハワードはそのキャリアを子役からスタートし、子役時代に8年間演じた『メイベリー110番』や、10代の頃に6年間演じた『ハッピーデイズ』で有名だったそうです。おそらく日本でいうと子供店長えなりかずき北の国から』の純君みたいな誰でも知っている有名俳優だったのでしょう(←違うかも?)。

そして映画におけるその役者時代の代表作はおそらく『アメリカン・グラフィティ American Graffiti (1973年)』と『スパイクス・ギャング The Spikes Gang (1974年)』になるかと思います。 

アメリカン・グラフィティ 』は1972年に南カリフォルニア大学の映画学科へ進学した次の年の作品になります(大学は俳優業に追われて結局中退)。

この映画ではリチャード・ドレイファスに続く準主役で元生徒会長の優等生のスティーブというドレイファスと対をなす重要な役を演じています(ロニー・ハワード名義)。重要な役ではありますが純朴なアメリカの普通の青年という感じで、あまり印象的な感じではありません。しかしこの頃は(頭もふさふさな)ヤングスターで、端役のハリソン・フォードより遥かに有名だったと考えると隔世の感がありますね。おそらくそのまま役者の道を進んでもそれなりに成功していたと思いますが、この頃は既に演出に興味を持ちながらも俳優としての映画作りの経験を積んでいたのではないでしょうか。

ちなみにジョージ・ルーカスUCLAの先輩に当たり、その後『コクーン(1985年)』の特撮支援や『ウィロー Willow (1988年)』製作へとその関係は続きます(ロン・ハワードの特撮の使い方はルーカスとは対照的で『アポロ13(1995年)』のようにそれが特撮だとは気付かれないようなやはり職人的な使い方になります)。

翌年の『スパイクス・ギャング』は名将リチャード・フライシャーの作品です。この映画ではリー・マービン演じるスパイクを慕ってギャングになる三人組の若者の一人を演じています。三人組の中でもリーダー格の男と誤って議員を殺してしまう後でメガネをかける目の悪い男の間に入る、いかにも普通で人のよさそうな若者を演じています。終盤における逃避行の末「人生って素晴らしい」と夢の中の出来事を語っているシーンが印象的です。

おそらくリチャード・フライシャーロン・ハワードの透明度の高い滑らかな職人監督としての資質に最も影響を与えた監督ではないかと思います。特撮物を含めてあらゆるジャンルを普通にこなしてきたフライシャー。職人監督の中の職人監督ともいえる職人監督の代表のような監督です。ロン・ハワードはそんなフライシャーの演出を間近で見てきた直系の子孫にあたるのです。現在においてリチャード・フライシャー後継者は誰かというと間違いなくロン・ハワードということになるでしょう。 

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ロバート・ラングドンシリーズ

さて、問題のロバート・ラングドンシリーズですが言わずと知れた『ダ・ヴィンチ・コード The Da Vinci Code (2006年)』と『天使と悪魔 Angels & Demons (2009年)』の二本が撮られており、今回の『インフェルノ Inferno(2016年)』が三作目となります。

実を言うと僕はこのシリーズが苦手です。『ダ・ヴィンチ・コード 』に関しては脚本に原作者のダン・ブラウンが関わっているせいか無駄に冗長(劇場公開版が149分でエクステンデッド版が174分!)で映画的にはストーリーテリングに追われるだけの普通に凡庸な出来だと思います。

そもそも『ダ・ヴィンチ・コード 』に関しては何で最初の被害者が死ぬ前にあんな面倒くさいダイイングメッセージを残すのかという根本的なところからして大きな疑問符が浮かんでしまいます(←こういう事を思う人はミステリー自体と相性が悪いんでしょうね)。

小説の方だと色々蘊蓄が読めて面白いんでしょうけど、映画だと謎が起きてもすぐ解決されるパズルイベントを解くだけの単調なパターンが続くのでサスペンス映画としても退屈です(特に警察に追われて飛行機からの脱出をフラッシュバックで説明するという種明かしは酷いというかアホすぎますね)。

次の『天使と悪魔』に関してはまだ映画的な脚色が入っている分マシな感じはしますが「反物質」をマクガフィンじゃなくてシズマドライブみたいな容器に入った爆弾兵器として使用してしまうという中途半端に荒唐無稽なトンデモ設定に大きな疑問符が浮かんでしまいます。お前ら「反物質」とか「CERN」とか言いたいだけちゃうんかい!という感じです。あれならシュタインズ・ゲートの方が誤解を生まない分まだましです(あれは正確にはSERNでしたけど)。

おかげでCERNはわざわざFAQサイトを作って弁明(宣伝?)する始末です。

Welcome | Angels & Demons - The science behind the story

あと東大物理学教授による原作本を詳細に検証したサイトもありますのでご参考まで。

物理学者とともに読む 「天使と悪魔」の虚と実 50のポイント

まぁ、ロン・ハワード的には荒唐無稽なモノより役者主体のドキュメンタリー的なモノの方が似合っていると思うのですが個性を殺して作品の素材に殉じるというのが職人監督なのでしょうがないですね(ヒットしましたしね)。

という訳で今度の『インフェルノ』に関しても全く期待はしていないのですけれども、多分職人監督として普通に印象の薄い普通の映画に仕上げてくれると思います。つまり今回の対策は何も期待しないで今時珍しい普通のアメリカ映画である事を期待して劇場に足を運ぶ事になります。

なんかあんまし褒めていないような文章になりましたが、現在の無法地帯のように普通のアメリカ映画が存在しない底の抜けた既に普通じゃない映画界において、このロン・ハワード普通さは貴重だという事は声を大にして主張しておきます。

まぁ、なんにせよロン・ハワードトム・ハンクスの人気シリーズですからどのみちヒットするのでしょう。そういえばこのコンビは『スプラッシュ Splash (1984年)』から既に30年以上の長い付き合いになります。ロン・ハワードは役者出身ということもあって脇役や女優も含めて役者の扱いは巧いし趣味がよいのです。この点に関してはロン・ハワードの唯一作家的な個性といえるのかもしれません。今回もこの映画が大ヒットしたら『フロスト×ニクソン Frost/Nixon (2008年)』のような低予算の地味に役者主体の演技バトルが見られる趣味的な役者映画を何本か撮って欲しいところです。 


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