『陽炎座(1981年)』 ~ 鈴木清順による"浪漫三部作"の清順時空②

陽炎座(1981年)』 

傑作『ツィゴイネルワイゼン』よりさらにエロ度、グロ度、ナンセンス度、つまりは清順度がパワーアップしたのが本作です。二時間二十分のフルマラソンなのに百メートルの短距離走のペースで全力疾走してるかのようなテンションの高さで手抜き一切無しで泉鏡花とガチバトルする清順流サービス精神旺盛な娯楽映画でもあります(緩急がある方が破綻がなく見る側にとっては楽なのですが、この映画は破綻上等!な潔さで疾走しますので見る側に絶えず一定の緊張を強います←まぁ、これはいつものことではありますが)。

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  (※上記画像は以下のサイトより)

鈴木清順監督“浪漫三部作”公式サイト―ツィゴイネルワイゼン/陽炎座/夢二

水面の反射を境界とする二つの世界

 『ツィゴイネルワイゼン』ではを媒介として二つの世界(この世とあの世)が交差していましたが『陽炎座』ではタイトルバックに示される通り、、ひいては水面反射する境界より二つの世界(夢と現)が交差します。 以下、主に水に関連するシーンを用いてその内容をご紹介いたします。

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一度目の逢瀬

タイトルバックの次に映される松田優作扮する劇作家の松崎が中腰で失くした女性からの手紙をの上で探しています。つまりという川の水の上の境界に立って手紙を探しているということになります(*1)。

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そこに現れるのがこの映画のファム・ファタールともいうべき大楠道代扮するホオズキ(品子)です(ここの実際のロケ地が鎌倉の「琴弾橋」と「護良親王の墓の階段」らしいのですが、つながらない空間が一瞬で同一時空につながってしまうというにがまさに清順時空ですね)。

品子は老婆が女の魂を拾い集めたというホオズキを五十銭で買って「キュッキュッ」と(死んだ女の鳴く声を)鳴らしていますが、これを怖い話をした罰として松崎に渡します。ホオズキもまた二つの世界を行き来する女の魂が具現化した物体です(*2)。

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二度目の逢瀬

二度目の女との逢瀬は駅の階段です。老婆により髪をむしり握られた品子は稲荷の手水鉢(ちょうずばち)ので松崎のひしゃくにより髪を洗い、濡れ髪をさらします(*3)。

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三度目の逢瀬

三度目の逢瀬は女の爺やに(待ち人と間違えられて)呼び入れられからで館の裏(後で中村嘉葎雄扮する玉脇というパトロンの館である事が分かる)に辿り着きます。館で女は皿にを入れて線香花火をしています。 尚、この館でのシークエンスではリンチもクロネンバーグも敵わない映画史上最も奇っ怪なセックスシーンが繰り広げられます。 果たして女との逢瀬は夢か現か分からぬまま松崎は夜も明けぬ内に送り出されて線香花火をしていたと回想します(皿のの中には品子の顔が反射しています)。

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四度目の逢瀬

「金沢夕月楼にてお待ち致します。三度びお会いして、 四度目の逢瀬は恋になります。 死なねばなりません。 それでもお会いしたいと思うのです。」

という手紙を受け取った松崎は金沢に向かいます。しかしそこには女はおらず、心中を見にきたという玉脇の座敷に呼ばれて出かけます。

その途中で松崎は水面を横切るイネ(玉脇の死んだ前妻)と品子の乗った船が横切るのを見ます(出崎統の三回バンクのように誰も舟を漕いでいないのにすーっと幽霊のように横切ります)。

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翌日、金沢をさ迷う松崎は狸囃子に導かれて品子に再会します。

品子は夢の中で手紙を書いたが出していないという。夢の中を死んだイネが覗いて手紙を出したのでしょうと。

水面反射の中で裏返って「◯△口」を写生する品子。手帳を残してを超えて近ずく松崎から去り消えます(*4)。の両岸にいる別空間の二人が水面の反射によって同一空間でがつながって話しているのがまさに清順時空ですね。

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宿に戻った松崎は玉脇から夜叉ヶ池で心中がみつかるかもしれんと誘われます。ここで玉脇の妻がホオズキを鳴らす品子であるという事が分かります。品子は心中道具が揃ったの中から現れ、松崎はで品子との心中をせまられますがそんな深い仲になったわけじゃないと松崎はそれを断り、玉脇の乗るが回転します。

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心中から逃げて酔っ払ってくだをまく松崎にアナボル(アナルコ・サンディカリスム+ボルシェビズム)の原田芳雄が声をかけ、フリーメーソンめいた人形の儀式に誘います。そこで人形師の大友柳太郎からドッペルゲンガーを見て死んだ息子の話を聞きます。松崎はその話を聞いて指で「◯△口」を魂の抜けたドッペルゲンガーの男の背中に指で書く品子の幻想を見ます(一回目)。

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翌日子供歌舞伎の陽炎座の舞台ではホオズキ売りらしい裏方によって作られた劇中劇が行われています。そこでは赤いの幕がかかっており、その舞台で品子は人形のように踊らされ男と心中して死ぬ筋書きになっています(*5)。

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の中の品子は女の魂であるホオズキを放出して水面の境界をホオズキで埋めつくします。松崎はそのホオズキを食らって樽の中頭を突っ込んでの中に沈みます。 

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「死体が浮き上がったぞ、心中や」という村人の声の下、精霊流しのようにを流れる紙の灯篭が開くとそこには玉脇が品子を猟銃で撃って心中した絵図が描かれており、それが銃声とともにに沈むと夢と現世が混ざり合います(後の加賀まり子の話と絵の猟銃からして死体は玉脇と品子でしょうね。「女が死のうと思い詰めたら男は助からんよ」)。

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松崎は夢が現世を変えた世界で魂の抜けた自分のドッペルゲンガーの背中に指で「〇△口」を背中に書く品子を見るのでした(二回目)。

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「 四角院円々三角居士(しかくいんまるまるさんかくこじ)」という戒名を、祭り囃子が聞こえるなか僕はキメ顔でそう言った。

 

 


≪おまけ:押井守のパクリカ?≫

 『陽炎座(1981年)』  

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天使のたまご(1985年)』 

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OVAパトレイバー(アーリーデイズ)/二課の一番長い日(1988年)』での『けんかえれじい(1966年)』オマージュも有名ですし、押井さん清順好きなんでしょうね。

 


【追悼】

池谷仙克さん(1940年8月31日- 2016年10月25日):美術監督

池谷仙克 - Wikipedia

ウルトラマン』(1966年 - 1967年)の特殊美術助手を経て、『ウルトラセブン』(1967年 - 1968年)で特殊美術、主な実相寺作品や『陽炎座』、『夢二』、『さらば箱舟(1984年 寺山修司監督)』や『台風クラブ(1985年 相米慎二監督)』といった日本映画の傑作の数々の美術を手掛ける。

著書:『怪獣幻図鑑―池谷仙克画集』(東宝出版事業室)

 

ご冥福をお祈りいたします


【関連記事】   


*1:この部分の関連原作は泉鏡花『艶書』

*2:この部分の関連原作は泉鏡花『酸漿』

*3:この部分の関連原作は泉鏡花『星の歌舞伎』

*4:この部分の関連原作は泉鏡花『春昼』、『春昼後刻』

*5:この部分の関連原作は泉鏡花陽炎座