『夢二(1991年)』
前二作が原作付で全くのフィクションの世界を描いていたのに対して、本作はオリジナルで実在の人物(沢田研二扮する「竹久夢ニ」、宮崎萬純扮する「彦乃」、広田玲央名扮する「お葉」)が登場する映画になっています(とはいっても当然の如く伝記映画ではございません)。
そのせいかどうかは分かりませんが前二作に比べると沢田研二の”躁”演技や女優の華やかさもあってか軽やかで明るめの映画になっています。まぁ、前二作と比べると評価の分かれる作品ですが、黄色い舟は尋常じゃない速さで移動しますし(メイキングだと綱引きみたいに手動で動かしてる)、屠殺で湖が血で染まるといえばちゃんと湖が赤くペイントされるし、カフェ宵待草のセットはスローモーションで崩壊するし、「あ、お馬さん」と言えばちゃんとお馬さんが現れるし、離れたままで女の魂っぽい鈴が口移しされるし、前二作とおおよそ似たような清順時空から成り立っっている映画であることは確かです。
(※上記画像は以下のサイトより)
鈴木清順監督“浪漫三部作”公式サイト―ツィゴイネルワイゼン/陽炎座/夢二
顔のある表面と背中の裏面
さてこの作品には表と裏という言葉が最初から出てきます。『陽炎座』でも人形の表と裏という話がありましたが『夢二』ではそのテーマが例によってクレジットから表示されます。つまり表方と裏方です。
このオープニングのクレジットでは顔の見える俳優を表方、顔の見えないスタッフを裏方と呼んでいます。これはまぁ、文字通りの意味でしょうけど、この作品を良く表している言葉といえます。
この表と裏というのは人間にとって何になるでしょうか。性格に裏表があるなんて言いますけど、そのような心理的な状態は物理的に画面に映りませんので特に清順さんの映画ではたいがい色とかモノとかの何等かの物理現象に変換されてしまいます。
つまりこの映画ではすごく具象的な話になるのですが人間の表と裏、つまり顔のある表面と背中のある裏面が描写されます。
よってこの映画のオープニングには扇を持った顔の見えない女の裏面、つまり背中が描写され、原田芳雄扮する「脇屋」の表面の顔が不明のまま夢二の夢の中に登場します。
畳に寝っ転がって縦の構図で背中を見せるというのもこの映画の特徴です。
背中向いて会話が成立するというのも清順時空だと普通です(普通の映画ではたいてい退屈な切り返しで処理されます)。
『陽炎座』でもドッペルゲンガーが出てきましたけど、本作ではさらにもう一人増えて登場します(これも背中だけ)。名付けて夢一、(夢二、)夢三のトリオ・ザ・夢二です。
裏を向いた美女は顔無しに描かれます。
片袖の花嫁衣裳の背中に描かれる夢二の絵(脇屋を狙ってブルールームに登場する鬼松は今では幻の映画監督と呼ばれる長谷川和彦さんです。まさか役者として太陽を盗んだ男と競演するとは。「わからんちゃっ」と言うセリフがいい味出してます)。
絵のサインは夢の字が三つ。その一つにかんざしを挿して夢二と読ませています。
背中の裏に見返りの表の顔が描かれて宵待草の絵(実際は「立田姫」という49歳で夭折した夢二晩年(1931年47歳)の作)の完成です。
終
≪おまけ:夢二の絵≫
『ツィゴイネルワイゼン(1980年)』で三味線を弾いている原田芳雄の後ろの絵で既に登場してますね。
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