ようこそ。アンソニー・マン/フィルム・ノワール(仮想)映画祭: 第三夜へ。
(仮想というより妄想になりつつありますが...)今夜はアンソニー・マンフィルム・ノワール時代初期の作品『仮面の女(46年)』とイーグル・ライオン社フィルム・ノーワール三部作の三本目と言われる『夜歩く男(48年)』、及びアンソニー・マンのフィルム・ノーワール時代最後を飾るとも言える『サイド・ストリート(49年)』の三本をお送りします。
『仮面の女 / Strange Impersonation /(1946年)』
この映画は顔を変えて他人になりすますサスペンスノワールです。顔を変えて良心を鍛えるとサム・ライミの『ダークマン(1990年)』みたいなヒーロー物に、顔が変わること自体を徐々に追っていけばジョルジュ・フランジュの『顔のない眼(1960年)』みたいなホラー物になるのですがこれは昔のパルプマガジンにありそうなちゃんと起承転結のある非常に古典的なサスペンス物です。
68分という非常に短い中編レベルの映画ですが、終盤に主人公が陥ることになる状況が非常に面白いアイデアというかこれしかないという話でニヤッとさせられます(ネタバレになるので書けませんが)。
というわけで普通に面白いサスペンス映画ではあるのですが1946年のこの時点では画面構築上のノワール色はかなり薄い作りになっています。なので1947年からのイーグル・ライオン社作品でのジョン・オルトンとの出会いがアンソニー・マンの映画作りの転換点だったということになるのではないでしょうか。
『夜歩く男 / He Walked By Night /(1948年)』
『T-MEN(47年)』、『Raw Deal(48年)』に続くイーグル・ライオン社でのノワール作品です。監督はアルフレッド・ワーカー名義ですが実質(途中まで?)アンソニー・マン作品と言われています(契約上の問題でアンクレジットらしいのですが詳しい話は私もよく知りません)。
セミドキュメンタリータッチのノワールで警察がモンタージュ作成のような当時の科学捜査を駆使して犯人のサイコパスを追い詰めるというのが簡単なお話です。
撮影は前二作同様、天才撮影監督のジョン・オルトンです(オルトンは低予算短期間でA級映画のような画面を作るのでイーグル・ライオン社では重宝されていたようです)。
そしてこの映画の中で最も印象的で素晴らしいのが何といっても地下排水溝でのチェイスシーンです。何故この地下排水溝でのチェイスシーンが素晴らしく、かつホラー映画のように恐ろしいかと言うことに関しては、この光と影の実験の舞台が左右に逃げ場のない縦方向に閉ざされたアンソニー・マン的閉鎖空間だからとまずは考えられます。
...という話は前回も書きましたので省略しますが、この“マン=オルトン相関空間”では霧やスモーク(さらにダメ押しで催涙弾が追加されます)の他に排水面から水が滴り落ちるは、懐中電灯の光で路面が水に濡れて反射するはで、フィルム・ノワールのファンにとってはこれ以上望むべくもないであろう光と影が交差する美しいノワール空間が展開されます。
(尚、この作品は一応廉価版のDVDが発売されていますが画質はyoutubeに挙がっているものと大差ありません。クライティリオンあたりでイーグル・ライオン三部作のリマスター希望です)
<お約束の雨に濡れて光る舗道>
<地下排水溝の光と影の閉鎖空間>
<ライフル銃の光と硝煙>
<まるで『エイリアン』の宇宙船内のように水と煙と懐中電灯が反射する地下排水溝>
<催涙弾でダメ押しの煙効果>
『サイド・ストリート / Side Street /(1949年)』
『国境事件(49年)』に続いてA級メジャーのMGMで撮った作品で、撮影監督はオルトンではなくアカデミー賞を四度受賞した重鎮のジョセフ・ルッテンバーグが務めています。予算があるのか冒頭空撮で始まるのも『国境事件』と同じで、こちらはニューヨークの都会のサイド・ストリートを舞台にした出来心で盗みを犯した男とその妻の純愛ノワールです。というか主役の二人がファーリー・グレンジャーとキャシー・オドネルなので前年ヒットしたニコラス・レイの傑作処女作『夜の人々 / They Live by Night / (1948年)』の便乗商品の側面が強いと思われます。
そしてこの映画の中で最も印象的で素晴らしいのが何といっても摩天楼でのカーチェイスシーンです。何故この摩天楼でのカーチェイスシーンが素晴らしいかと言うことに関しては...まぁ、ご想像の通りまた同じ事を書くんですけど、ビルの摩天楼によって縦方向に閉ざされたアンソニー・マン的閉鎖空間だからなんですよ(屋外なのに閉鎖空間とはこれ如何に。しかしなぜこれ程までに一貫して閉鎖空間にこだわる徹底振りは一体なんなんでしょうね!)。
<摩天楼に遮られ縦方向に閉ざされた閉鎖空間>
そしてこの映画で一端アンソニー・マンのフィルム・ノワール時代は終わります。そして翌年1950年より名作の誉れ高い『ウインチェスター銃’73』を皮切りにユニバーサル、MGM、パラマウントとメジャー会社それぞれから西部劇という新たなドル箱路線のキャリアを歩み始めます。さらにその後は『グレン・ミラー物語(54年)』みたいな「午前十時の映画祭」でも上映されるような名作を連発していきます。ということでジョン・オルトンと始めた1947~49年までの実質たった3年間という短い期間がアンソニー・マンのフィルム・ノワール時代ということになります。
というわけで恥ずかしげもなく続けてしまったこの(仮想)映画祭は一旦終わります。
後は
『偽証(Railroaded! ) /(1947年)』
『秘密指令(Black Book / Reign of Terror) /(1949年)』
あたりが字幕版で出て来れば復活するかもしれません。
(ブロードウェイさんよろしくお願いします!)
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