『高い標的 / The Tall Target /(1951年)』~アンソニー・マンによる究極の縦長映画

縦長映画?そんな映画のジャンルは存在しないのですけれども、この映画を勝手ながらそう呼ばせて頂きます。

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The Tall Target ”略して“TTT”。このアルファベットの中でも縦長といっていい文字である“T”がこの映画のタイトルとして三つ並んで冠されているのは単なる偶然ではありません。そのことは『スター・ウォーズ』のように(当然こちらの方が先ですが)画面奥に向かって縦方向にスクロールするオープニング説明から見ても明らかです。

縦長の文字である“T”が“TALL”として縦長に引き伸ばされて画面奥に消えていく様は、デザイン的にも単語の意味的にも狙った意図があると同時に、これこそアンソニー・マンにふさわしいタイトルバックだと思わずにはいられません。

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というのもフィルム・ノワール時代(1947〜49年)のアンソニー・マンにとって縦方向への画面構成への執着は尋常ならざるものがあるからです。これはB級映画作家としてスタートしたアンソニー・マンアイデンティティと言ってもよいかもしれません。以下その理由を勝手に推測してみましょう。

①撮影時間の短縮
 B級映画だと撮影期間二週間以内というのがザラですのでとにかく時間のかかる面倒な左右切返しや移動撮影は最初から選択肢がなかったと思われます。固定画面で縦方向に人物を配置してさっさと撮影を済ます時短演出を行っていたのではないでしょうか。
 ②室内セットの問題
低予算のB級映画のため室内セットが最小限カメラの向いている正面の縦方向しか作られていない可能性があります。左右にパンや移動撮影をしたくても舞台自体が存在していないため画面内の縦方向に人物配置を工夫する演出を行っていたのではないでしょうか。
③監督の個人的嗜好
他の同時期のB級映画作家(フラーやレイ等)では自由なカメラ位置の構図で移動撮影なども普通に行っています。これは監督の個人的嗜好として縦方向に固定画面で人物を配置する演出を好んで行っていたのではないでしょうか。
 
と、まぁ実際のところはよくわかりませんが、マンの縦方向への画面構成への執着はフィルム・ノワール時代の映画で見てきた通りです。そしてその個人的嗜好が顕著に表れた集大成的な映画がこの究極の縦長映画である『高い標的 / The Tall Target 』なのです。
 

◆列車を舞台にした縦長映画

本来はジョセフ・ロージーの代打として請け負っただけの単なる雇われ仕事と言われているこの映画ではありますが、これほどアンソニー・マンにふさわしい題材の物語はありません。
簡単に物語を説明しておきますと、実際にあった事件を元にリンカーン(=“高い標的”)の暗殺計画を阻止しようとする警官の姿を描いたサスペンスで、ニューヨーク発ボルチモア行きの列車内を舞台として、主人公の刑事は就任演説が予定されているボルチモアに大統領が着く前に、その暗殺計画を未然に防ごうとジョン・マクレーンよろしく孤軍奮闘するというダイ・ハードなお話です。
つまりこの映画の主な舞台は列車内(及び駅周辺)に限定されます。そして列車(及び駅のプラットフォーム)というものは通常というか必ず縦長の構造をしており、その中はコンパートメントという閉鎖空間で仕切られています。つまり縦長の構造をし閉鎖空間というアンソニー・マンフィルム・ノワール時代に追及してきたテーマとテクニックが存分に発揮できる題材がこの列車内サスペンス映画なのです(そしてこの時代の列車蒸気機関車ですので蒸気を利用した視覚効果のテクニックも存分に発揮されます)。
 
  <蒸気機関車の蒸気を利用したアクションや逆光>f:id:callmesnake1997:20160714225141j:plain f:id:callmesnake1997:20160714225116j:plain 

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 <縦長の構造をした閉鎖空間と縦の構図>

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ということでこの映画は既に前年より西部劇時代に突入したアンソニー・マンにとって、そのフィルム・ノワール時代の技術を集大成したともいえる究極の縦長映画です。そしてもし彼が現在も生きていたとすれば、奥行きのある閉鎖空間を活かした究極の縦長3D映画を撮ってくれたのではないかと妄想せずにはいられません。