遅ればせながら2017年度のベスト10を。2017年は清順さんやトビー・フーパーの訃報という悲しい知らせもありましたが、ジャン・ピエール・メルヴィルやキン・フ―といった素晴らしい作家の素晴らしい作品に触れることができる年でもありました。新作はあまり見てないのですが、映画に携わる全ての人々に感謝しつつ2017年ベストテンを選ばせていただきます。では早速一位より、当時のTwitterのつぶやきも合わせて。
第1位:『アウト・ワン 我に触れるな』(1971年)
こちらはまったく2017年の映画ではありませんが、2017年で最も衝撃的な映画体験をもたらくしてくれたという事実を忘れないためここに入れておきます。もはや一生日本で見ることもなかろうかと海外版Blu-Rayに手が伸びかけていた本作ですが、 思いもかけずクラウドファンディングという形で日本語字幕で鑑賞することができました。何はともあれ半世紀近く封印されていたこの野獣のような映画秘宝が現在の日本に解き放たれたということに関しては本当に素晴らしい2017年ベストな映画的事件かと思えます。この13時間もある映画を翻訳・上映するとことに関しては物理的に多大な労力がかかるということは想像に難くありませんが、この暴挙の実現に尽力された皆様にまずは感謝します。
ということで映画の話ですが、これが13時間とはいってもおしりの痛くなるのを忘れるぐらい面白く、見終わってももっとアウト・ツー、アウト・スリーを!をと思えるくらい13時間があっというまに過ぎてしまう面白い映画です。なるほどこれは「素晴らしい、だがちょっぴり短すぎる」とゴダールが語ったのも納得の映画です(4時間の短縮版を見た時の話ですが)。まぁ、13時間の映画とはいってもこの映画は8本のエピソードに分かれており、その合計が結果13時間ということであって、テレビの1クール物と捉えればそれほど長さを気にするほどの事ではありません。例えがあまり適切ではありませんが『ツイン・ピークス』のシーズン1を続けて見るようなものですね。最初の数エピソードは「これは映画か?」と拷問とも思えるようなシーンが続きますがそれを乗り越えると「これは映画だ!」との確信に変わります。この長編物の醍醐味ともいうべき映画体験がとても衝撃的でした。なかなか見る機会はない映画かもしれませんが、機会があればぜひジャック・リベットという素晴らしい映画作家が構築した素晴らしい映画世界に触れて頂ければと思う次第です。
第2位:『ツイン・ピークス The Return』
次は一昨年以来期待に胸膨らませて待ち続け、ついに四半世紀振りに復活したツイン・ピークスです。そしてこれが想像以上というか想像という概念を吹っ飛ばす程にクリエイティヴな想定を遥か斜め上をいくシリーズになっておりました。さすがリンチ。これは2017年、引いては21世紀を代表する一本ではないでしょうか。厳密には映画という枠には分類されない作品なのかもしれませんが、これが映画でないのであればもはや僕にとってもう映画というメディアは不要です。こちらも18時間というアウト・ワン以上に長尺ですが、長さは気になりません。デヴィッド・リンチの集大成であり、新たな出発点を獲得したバケモノのような映画です。
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今日は朝からデヴィッド・リンチ。夜もWOWOWでリンチ。1日中リンチで脳味噌リンチ漬け。
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年9月30日
今日気付いたけど最新作『ツイン・ピークス The Return』のキノコ雲とシカモアツリーは『イレイザーヘッド』のヘンリーの部屋に飾ってあるからデビュー以来一貫してリンチはリンチなのである。 pic.twitter.com/EQmkxKW3A6
気がつけばまた画面の隅にハリー・ディーン・スタントンもこれで最後。口から出る言葉はただありがとうだけ。
禁煙したという若者に「俺は75年間毎日吸ってる」答える役のハリー・ディーン・スタントン。年取ってもシブくてカッコ良すぎ。
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年9月2日
彼はリンチとヴェンダースとジョンカペとリドスコとアレックス・コックスとミリアスとスコセッシとコッポラとペキンパーとモンテ・ヘルマンを繋ぐ唯一無二の名脇役である pic.twitter.com/5fa5FelMIW
第3位:『リュミエール!』
「フレームで捉えられた動く被写体が100年後も生き返って生々しく再生出来るモノ」、これがリュミエール兄弟が発明した映画という今も生きながらえていえる不死のバケモノの正体です。1895年122年前のはじまりの映画がこんなに美しく、楽しく、力強いとは。全ての映画はここから始まり、現在に至るまでずっと繋がっていることにに深く感動しました。 しかし120年以上前の映画がこんな繊細で美しい映像として保存されているという事は、世に出回っているおんぼろフィルムの全てはもともとすごく綺麗なフィルムから劣化してきたということになり、この画面の美しさも目からウロコの衝撃でした。
『リュミエール!』東京都写真美術館
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年10月28日
なにこれー、たのしーい、きれーい、おもしろーい、と人を映画の初源に引き戻してしまう恐るべき50秒1本勝負の世界。90分108本最後まで見るとこれだけでは少な過ぎる、もっとリュミエールを!と思えてくる。全てはここから始まり、全てはここにある。 pic.twitter.com/ZnYxpVCiue
#あなたの好きな映画内映画
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年12月9日
リュミエール No.250 『シネマトグラフ上映館の入口』
1896年ロンドンで撮影されたおそらく世界最古の映画内映画。
劇場左上に“LUMIERE CINEMATOGRAPHE EVERY EVENING ”の看板が見える
(この映画は2017年の映画『リュミエール!』内で見ることができる) pic.twitter.com/JxBXKt7O4k
映画『リュミエール!』には映画の始原の快感とも呼ぶべき瞬間に満ちていて、これもたぶん世界初であろう空撮による大俯瞰の移動風景。1897年リュミエールNo.997『繁留気球から撮影したパノラマ』 pic.twitter.com/hDtakAHZmV
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年12月12日
映画の被写体としての蒸気や煙や霧はそのランダムな動きと光と陰によって極めて映画的な魅力を放っています。そしてそれは時空を超えてA・マン、キン・フー、カーペンターの映画に迄繋がっています。以下は1897年リュミエールNo.833『舗道工事をする労働者』、同年No.1034、1035『バクーの油田、近景』 pic.twitter.com/amAYveeb59
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年12月14日
映画『リュミエール!』では数々の始源の魅力に満ちた移動風景(パノラマ)が紹介されていますが、中でも1897年リュミエールNo.687『セーヌ川の移動風景(パノラマ)』は、ストローブ=ユイレ『アメリカ』のセーヌ川の自由の女神を捉えた移動風景(4枚目)のような美しいショットで驚かされます pic.twitter.com/WuDt3n0eXL
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年12月15日
第4位:『散歩する侵略者』/『予兆 散歩する侵略者』
2017年はトビー・フーパーが亡くなった悲しい年ではありますが、我々にはまだ黒沢清という希望の光が残されているのです。
『予兆 散歩する侵略者』2017年
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年9月19日
(映画 散歩する侵略者 スピンオフドラマ)
カーテンは風に揺れ、病院の窓の外のビニールシートも風に揺れ、まるで『めまい』のキム・ノバックのように影を通りぬけ登場する東出昌大。鏡でさえも確実にその予兆に揺れている。なんとも贅沢なこの映画的瞬間。 pic.twitter.com/sQvh3HF3Ql
第5位: 『デ・パルマ』
昨年の一時期はこの映画の予習としてデ・パルマ作品ばっかり見てました。ついでに簡単な(ほぼ)全作品レビューを書いてしまいましたが、通してみるとこの特異な個人映画作家の一貫した特異性に驚かされます。
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『デ・パルマ』’15年 シネマカリテ
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年7月29日
デ・パルマが自身の生い立ちから初期短編(凄く面白そう)含む全作品を楽しそうにオーディオ・ヴィジュアルコメンタリーしてくれるという非常に親切な作りの夢のような作品。これまで彼に書かれたあらゆる批評をかき集めてもこの作品の批評性には敵わないだろう pic.twitter.com/9ytQid2VJy
第6位:『パターソン』
twitterにも書きましたがジャームッシュは『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の頃から30年以上一貫してますね。一見オフビートなところは全く変わっていないですけど、常に新しい事に挑戦していて、これがその最新の成果ということになります。
『パターソン』は一見退屈そうな日常をパズルのように分節化してそれを俳句のように並べて日々の暮らしを異化するという実にジャームッシュらしい粋な映画だった。そして動きに乏しいバスの運転手の緩やかな運行が実にロードムービー的な移動と出会いをもたらしてくれるというのもオフビートで実に良い
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年8月31日
映画監督は30年経とうが40年経とうが本質的に大して変わらずシャケのように源流に遡行するものなのね
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年11月1日
ジャームッシュ
1984『ストレンジャー・ザン・パラダイス』
2016『パターソン』
リンチ
1977『イレイザーヘッド』
2017『ツインピークス The Return』 pic.twitter.com/bFCaCrc25w
第7位:『エイリアン コヴェナント』
この映画はあまりにも複雑で難解だったので二回見に行きましたが、いまだに解読できていません(三回目に挑戦しようと思ってる内に終わってましたが)。バーホーベンもそうですけど、老境に差し掛かった作家がもはや死をも恐れるものもなく、老いてさらに狂暴化して手のつけられなくなった感じがします。
『エイリアン コヴェナント』2017年
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年9月17日
かなり一作目に寄せてきた感はあるものの、巧妙に(反)神話的な風呂敷を広げつつあるリブート作。デジタル撮影の明るさは好みの分かれるところだが、それはたいした問題では無い。ゴリアテとダヴィデによる異種交配的異形契約は中国版ポスターが的を得ている pic.twitter.com/eZAuO8sB6W
第8位:『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』
これはティム・バートンの趣味全開の映画で最高ですね。次は『ダンボ』らしいのですが、次作もディズニーをダマくらかして趣味全開の自分の映画を撮っていただきたいです。
#ティム・バートン #ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年2月4日
透明人間からハリーハウゼンからクエイ兄弟に至るまで趣味全開も楽しいジュブナイルSF 。原作物よりオリジナルの方が面白いバートンだけど、これはバートンらしい美しくも恐ろしいビジュアルセンスが光って素晴らしい。今年のベスト候補 pic.twitter.com/4VOnzMm03u
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第9位:『夜明け告げるルーのうた』/ 『夜は短し恋せよ乙女』
一年に二本もの長編アニメーションを発表するという仕事の速さも驚異的ですが、既にもう一本『DEVILMAN crybaby』も制作済みというのから驚きです。まだまだこれからもこの類まれな天才アニメーション作家の快進撃が続くようで楽しみです。
夜明け告げるルーのうた
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年5月20日
細⭕や新⭕のような雑魚はともかくとしてジ⭕⭕ですら歴史上不用だったのではと思わせる恐ろしい作品。結局東映動画以降のリアル化路線の行き着く先は死屍累々しか残されない。しかし単純で楽しく生き生きとした動きがアニメーションの本質であることを湯浅作品は教えてくれる
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第10位:『アトミック・ブロンド
第10位:『鉱 ARAGANE』
最後は同率でアメリカと日本の新人監督二人の作品です。まったくどちらにも接点はありませんが、前者は自分の好きなものを詰め込んだアクション映画、後者はワンショットワンショットが現実の対象を切り取った音響ノイズ映画です。
『アトミック・ブロンド』
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年10月22日
予告が良くてまたいつもの予告詐欺か?と懸念してましたが、これは村川透をデジタルでさらに長回ししたみたいなアクションはあるは選曲はおっさんホイホイだわで想定以上に古い皮袋に新しい酒を盛った素晴らしい映画でした。何はともあれシャーリーズ・セロンが美カッコいい pic.twitter.com/fRsMWtgpDQ
『鉱 ARAGANE』ケイズシネマ
— callmesnake1997 (@callmesnake1997) 2017年10月28日
ということでこれもリュミエールの子供達のひとつになるのでしょう。ひとつのショットを信じなければ映画としての魅力も成立しませんがこれはリュミエール的に確信を持ったショットとそこから生まれる音響をひとつひとつ積み重ねられて行くのを体験する映画でした pic.twitter.com/uRh3ut90yO
他にも10選には漏れましたが『エル ELLE』、『マリアンヌ』、『ローガン』、『アウトレイジ 最終章』、『傷物語』、『希望のかなた』も上記と同様に素晴らしい映画でした。今年もまた素晴らしい映画に出会えますように。以上 2017年映画ベストテンでした。