2019年映画ベスト10

世の中の公開されてる映画は多過ぎて見れない!(某CM風)...という言い訳はさて置いて、2019年も旧作ばかりに足が向いてしまい新作は好きな監督以外はあまり見れていないのですが、それでも素晴らしい作品が色々とありましたので10本(+α)を記しておきたいと思います。


【第1位】『イメージの本』ジャン=リュック・ゴダール

7時間とか4時間とかナルシスティックな長回しの「撮影の映画」が横行する中、もはや撮影というプロセスですら主要ではないアーカイブモンタージュを主体とする短い映像と音響の連なりが不断の刺激を生む「編集の映画」をB級映画並の85分間ガッツリ作り込む過激な映画革命家が今現在も現役で活躍しているという事はやはり孤高の存在だと思えます。殆ど解読不能な部分も多いのですが、果たしてこれは映画なのかとの思いを一番持たせてくれた映画です。

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第4章では『JLG/自画像』(1995)のフィルムをハサミで切る編集シーンのワンカット(1枚目)が、殆どその原型をとどめない程に加工されたイメージとして再利用されている(2枚目)

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この『イメージの本』での編集カットの直前のカットはキャメラのクランクを回している映像(1枚目)で、今まさに撮っている映像のアーカイブとそのフィルムを切って編集している自作の映像のアーカイブモンタージュしていて、その繋ぎ先として提示されるのがジョン・フォードの『若き日のリンカーン』(1939)(3枚目)

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犯罪者を喚起させるアーカイブイメージとして『ファントマ』(1913)のポスター(1枚目)がモノクロに加工された画面が(2枚目)が「社会は共通の犯罪の上に成り立っている」という字幕の前に出てくる

【第2位】『ヴィタリナ(仮題)』ペドロ・コスタ

まるでハリウッド全盛期のダグラス・サークのような影が流れる照明を使って(予算は千分の一位でしょうけど)、映画館でのみしか味わえない黒々としたノワール画面がほぼ全カットに渡って繰り広げられるという狂った傑作。ストローブ=ユイレのような厳格な絵作りと各役者が考えたという台詞がノイジーに共鳴する個人映画。

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【第3位】『運び屋』クリント・イーストウッド

日本人はイーストウッドに甘いと言われているそうですが、そんな事はどーでもよろしい。という事でMiG-31火狐のコックピットのような閉鎖空間である運転席に拘束される御大自身が久々に登場。それも鼻歌混じりにいけしゃあしゃあと図々しい振る舞いを見せてくれるというのだからそれだけでも満足な映画です。しかも、既にもう新作が公開されている事からも分かるように確信犯的にかなり早撮りしてると思われますが、その判断も含めて最良のアメリカ映画に思えます。

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【第4位】『マーウェン』ロバート・ゼメキス

PTSDを持つ主人公が箱庭的な第二次大戦フィギュアの世界を通じて立ち直るという『フォレスト・ガンプ/一期一会』のような人間ドラマに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ロジャー・ラビット』のような異次元交差を絡んでいくゼメキスの最新作。冒頭より明確にハイヒールを主題としており、これを履く以外でどのように敵に活用するのかというのが最高です。 

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ちなみに主演のフィギュアはニコラス・ケイジのフィギュアらしい

【第5位】『旅のおわり 世界のはじまり』黒沢 清

このジャンル不詳の映画は何かと問われると単に黒沢映画という事しか思いつきませんし、何故この映画が感動的かというとそれが映画だからという単純な理由しか思いつきません。ほぼ9割くらいこの映画は主人公が不条理に異国の地を彷徨っている状況なのですが、それが最後にアルドリッチ映画のような痛快さで大逆転が訪れます。背後からそっと突き放されて彷徨っている前田敦子さんは洞口依子さんのように美しく素晴らしかった。

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【第6位】『さよならくちびる』塩田 明彦

ハルとレオのアコギデュオとローディの男の三人組が非ロードムービー的に時系列が行きつ戻りつ廻り道し、三角関係は一方通行関係に惹きつ離れつという一筋縄ではいかないひねくれた音楽青春映画です。音で繋ぐ演出が繊細で、冒頭のガススタンドでは画面はレオが車に乗るアクションを省略しているのにトイレの音で繋いだり、風の音やピーラーの音を先出しで画面を繋いだり、鉛筆の音の後で詩を文字出したり(更に次は無音にしたり)、楽器屋の試し弾きのままハルからレオの描写に繋いだりしています。その独特の時間の省略とぶっきらぼうにノリツッコミする三人組の振る舞いはフォークというよりパンク的ですらあります。

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【第7位】『マリッジ・ストーリー』ノア・バームバック

ちょいダメ女子を淡々とリアルに擬似体験させてくれた『フランシス・ハ』と同様に、離婚闘争中の夫婦の双方を淡々とリアルに擬似体験させてくれるノア・バームバック監督作。離婚ってこんな大変なのかと思わせるこのリアルさは、おそらく監督本人の経験が混ざっていると思われますが、このインタビューでは否定されています。主演のアダム・ドライバースカーレット・ヨハンソン、脇のローラ・ダーンレイ・リオッタどちらも素晴らしく、特にカイロ・レンとは同一人物とは思えないアダム・ドライバーがミュージカルでも無いのに唐突に歌うシーンに不意を突かれました。

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【第8位】『カツベン!』周防 正行

お坊さんやお相撲さんや社交ダンスと同様にサイレント期の活動弁士を密な素材とする周防さんらしい用意周到なそれ自体活動写真なコメディ(この分かり易さは伊丹十三の継承者にも思えます)。当然サイレントな表現も多く、風に飛ばされる紙で時間の経過を繋ぐとか、二つの部屋が繋がるスラプスティックなタンスとか、キートンのような自転車チェイスとか。全て新たに撮影されたというサイレント作品が図々しくも繋がっていくというモンタージュも素晴らしい。

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【第9位】『センコロール コネクト』宇木 敦哉

監督脚本作画をほぼ一人でこなす 宇木敦哉監督作品。前作より10年振りにも関わらず、更にパート3に続くという事で、『外套』とどっちが早く完成するのかと余計な心配をしてしまう個人制作アニメ。今回も様々にメタモルフォーゼする個人の快感原則に即したフェチで独特な作画が全編に渡って繰り広げられていています。

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【第10位】『昨夜、あなたが微笑んでいた』ニアン・カヴィッチ

東京フィルメックスで見た監督とその家族が住む集合住宅が取り壊される際のドキュメンタリー。劇映画のように捉えられた廊下の縦構図が徐々に変化して驚愕のラストが訪れます。

(※以下ネタバレとなってしまいますが、普通に考えれば住宅の取り壊しを撮る場合は外からその様を捉えると思うのですが、この映画は部屋の中から取り壊される様を捉えらるというのが凄い…というかキミそのまま撮ってたら死んじゃうよね⁈というドキュメンタリーならではの衝撃)

カンボジアの新生ニアン・カヴィッチ監督作品で好きな監督はアピチャッポンと侯孝賢とオズだそうです。新作は同様の場所を舞台にしたフィクションとの事で今後も期待の新人さんです。

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【番外篇①】『宇宙の裏返し』高橋 洋

霊的ボリシェヴィキ』のDVD&BD特典収録の短編ですが、これがルカ版サスペリアの100倍面白い魔女映画になっています。というか正確には24分の短編が155分の長編より100倍面白いのだから計算上は645倍も面白いです(体感)。水を媒介にして裏返しの宇宙と交信する映画的シャーマニズム。音楽センスが前作に続いてまたも秀逸です。

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同じポーズですね

【番外篇②】『こおろぎ』青山 真治

映画祭上映しかされておらず、今年初めて劇場公開された2006年作品。視覚的、聴覚的である事は言わずもがな、触覚的である事、さらには嗅覚的なところまで演出される映画はなかなか無いのではなかろうかと思われる五感を刺激する伝奇怪奇譚。主演の鈴木京香×山崎努(怪演)、脇の安藤政信×伊藤歩も素晴らしい。

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【番外篇③】『ラストムービー』(1971) デニス・ホッパー

本年度最重要リバイバル案件とでもいうべき“最後の映画”の名に値する傑作が31年振りに時空を超えて映画館という祝祭空間に復活してきたのだから、まずはその“美は乱調にあり”な映画時空に何度でもダイブして身を委ねるしかありません。

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尚、今更な話ですが、The Smith のベストⅠとⅡのジャケット写真がはホッパーの作品からだったという事を同時公開されたドキュメンタリー『デニス・ホッパー/狂気の旅路』で恥ずかしながら初めて知りました。

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「Biker Couple」 (1961) by Dennis Hopper

【番外篇④】『ゴーモン 珠玉のフランス映画史』

2019年で一番素晴らしく足繁く通った特集上映企画はこれでした。まとめて見ると『ファントマ』(1913-14)と『トランプ譚』(1936)と『怪盗ルパン』(1957)はいずれも変装してホテルの壁に穴を開けて隣の部屋から物を盗むという手口が使われていて、ある種のフランス映画の伝統がゴーモンというひなぎくマークの基に時空を超えて連綿と続いているのが分かります。その時空の先には2019年の『カツベン!』も繋がっているし、『イメージの本』にも『ファントマ』やオフュルスの『快楽』が繋がっているのですから映画(史)とは時空を超えた不思議なイキモノです。

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ジャック・ベッケル『怪盗ルパン』(1957)での二つの部屋が繋がるキャビネット

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山田宏一先生の特大チラシ裏の文章によると「母親思いのレオン・ゴーモンはGaumontの頭文字Gを母親の名のマルグリット(ひなぎく)の模様で彩ったデザインのロゴを会社マークにして作る事になり、ラ・マルグリットの愛称で呼ばれた」との事

【番外篇⑤】『映画監督 神代辰巳

2019年最大の映画的事件といえばこれでした。帯の惹句はミゾグチ、オーシマ、そしてクマシロ(更にソーマイ、クロサワ) の並びの方がしっくりくる気がしますが、それはともかくとしてこのご時世に『映画監督 増村保造の世界』以上の人を殺せそうな重量を持つ本が出るのは凄い。値段も凄いけどそれ以上に貴重な資料的価値を持つ決定版の集大成。

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以上2019年映画ベスト10(+α)でした!

 

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