2021年映画ベスト10

2021年はモンテ・ヘルマンの新作への希望が永遠に断ち切られた絶望の年であり、一方その影響下にあるケリー・ライカート作品が一般公開された希望の年でもありました。ということで早速2021年のベストです。

【第1位】『リバー・オブ・グラス』(1994年)

【第1位】『オールド・ジョイ』(2006)

【第1位】『ウェンディ&ルーシー』(2008)

【第1位】『ミークス・カットオフ』(2010)

「普通に公開されていればその年のベストに選ばれていたであろう傑作揃い」と去年書いたばかりですので、普通に公開された今年はベスト1として選ばせて頂きます(全く2021年ではありませんが...正直これ以上のものを新作で見ることはなかった)。本来であるならば2021年は『First Cow』(2020)が公開されてライカート旋風が吹き荒れていたはずなのですが、これは2022年にようやく公開される予定との事なので、来年の楽しみにしておきましょう。

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【第5位】『ボストン市庁舎』(2020)

ジャン=リュック・ゴダール (1930年12月3日 - )

クリント・イーストウッド(1930年5月31日 - )

フレデリック・ワイズマン(930年1月1日 - )

と現在世界最強の現役映画監督がいずれも1930年生まれというのは非常に興味深い偶然なのですが、ゴダールの新作は無く、イーストウッドの新作は未見なのでワイズマンの新作を選ぶ事にします。

本作は市役所というのは格差/性差/人種差に関わらず市民の為に存在する場所だというあたりまえの事が羨ましくも見えてしまうというドキュメンタリーで、274分と長尺ですが屋内の長めの議論と屋外の短めのショットが巧みな編集で繋がれて緊張感は絶えず持続するという、素材はドキュメンタリーなのに劇映画のようなワイズマンイリュージョンを見せてくれます。

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【第6位】『Sonny Boy』(2021)

本作は映画ではなくTVアニメ(夏目真悟監督の初オリジナル作)なのですが、2021年に見た作品の中で最も野心的で不条理でユニークな世界観を持った他に類をみない素晴らしい作品なのであえて選びました。中でも特に第八話「笑い犬」の1シーンで少女が”ちょっと早いけどもう夜にしよう。満月の夜だ”と言って指をスワイプすると背景が昼間から満月の夜にスライドし、二階の屋根から後ろ向きにダイブして飛び降りると、驚いて飛び立った白い鳩の群れをトラックアップで少年が腕で避け、次のショットでは俯瞰で少女が一階を駆け抜けていくという一連のアクションショットにメリエス的な映画の考古学的恍惚を感じました(見たままを文字にすると何が何やらですが)。

サントラも良いです(音楽アドバイザーに渡辺信一郎氏がクレジット)。

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【第7位】『麻希のいる世界』(2022)

『どこまでもいこう』や『害虫』のような過去作と共に溝口やブレッソンの記憶をも呼び覚ます塩田明彦監督の新作です。こういうどこを切っても映画的な映画は今時反動的なんでしょうが、映画祭で賞を取るような映画祭向けの非映画的な映画もどきよりもよっぽど貴重だと思われます。

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【第8位】『偶然と想像』(2021)

こちらの方がやや感動作に作りすぎな感のある『ドライブ・マイ・カー』よりも濱口竜介監督らしさが出ていると思われる三話オムニバスです。少女マンガのような強引な展開と艶笑コメディ的な側面の軽やかさがあって割と笑えます。あとホン・サンス的なズームを予知的に使用して場面転換するというショットが素晴らしい。

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【第9位】『アメリカン・ユートピア』(2020)

デヴィッド・バーンスタンダップコメディアン/プリーチャー/ミュージシャンとして演劇/音楽ライブとも言えぬ何か今まで見た事の無いパフォーマンスを見せてくれて素晴らしい映画です(あのヒット曲はやらんのかいと思ってたらアンコールでそれしかないという粋な演出で演奏して感涙)。やっている事自体は『ストップ・メイキング・センス』(1984)の頃と変わっていないようでも、36年後の技術的な進歩でコードレスで自由な動きを可能にしていて、正統的な進化がどこにもないユートピア的な世界をみせてくれます。

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【第10位】『最後の決闘裁判』(2021)

冒頭の1386年12月29日パリでの決闘場で小さな羽毛のようなリドスコ雪や煙が舞っているだけでもう私なんか大方満足してしまうのですが、屋内の蝋燭や暖炉の橙色や窓を光原とする室内撮影も何かゆらゆらした光で画面を埋めずにはいられないリドスコ節が今となっては反動的で貴重に見えてしまうので選びました。ただ本作をMeToo以降のフェミニズム映画とみる事に関しては懐疑的(なんせ『G・I・ジェーン』の監督)なのですが、それでも時代は少しずつ前進しているのでしょう。

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その他旧作では(試写室を借りた)土橋名画座での『リチャード・フライシャー、3大実録犯罪映画』が素晴らしかったです(こういう趣味的な企画をどんどんやって欲しい)。

 

以上2021年映画ベスト10でした。

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