『ブライアン・デ・パルマ』円環と錯視の王、ほぼ全作品レビュー

今年はドキュメンタリー映画デ・パルマ』(ノア・バームバックとジェイク・パルトローの共同監督)が公開されると言うこともありデ・パルマ作品を色々と見直していたのですがどれも面白いですね。一般的には当たりハズレが大きいと言われているデ・パルマですが(興行的な話はともかく)僕にとってはハズレ無しの高打率なイチローみたいな映画作家です。また黒沢清の「ヒッチコックだけは真似してはならない」という警句をことごとく率先して破っている印象がありますが、デパルマ映画は当然それだけではありません。映画を見れば分かることですがデ・パルマには確固たるデ・パルマの法則が存在しておりますのでその点にも注目して書いてみたいと思います。

それでは以下今現在邦盤で手に入るほぼ全作品を年代順でレビューしてみます。

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【初期短編】

『Wotons Wake』 (1962)

映画『デ・パルマ』(2016)にちょこっと紹介されててすごーく面白そうだった学生時代の初期短編です。これは是空さんから発売されている『愛のメモリーBlu-Ray版の特典として字幕付きで見る事ができます(←素晴らしい!)。字幕付きと言ってもサイレント映画の体裁で、割れた鏡に自身を写す悪魔というかファントムというか恐ろしい形相の怪人が、ゴーレムかメトロポリスよろしく鉄クズより女性を創造して追いかけまわすという、いかにも暗黒舞踏的(音楽がそれ風)な自主映画で、『第七の封印』みたいにチェスしたり『キングコング』のエンパイヤ―ステートビルのシーンを引用したり、さらにエド・ウッドのように実写ニュースをモンタージュするというハチャメチャな事をやりながらも後の非凡な才能を予感させる作品です。

他にも『愛のメモリーBlu-Ray版の特典にはニューヨーク近代美術館のアート作品のドキュメンタリー『The Responsive Eye 』(1966)が収録されています。こちらも「錯視」という”視覚のだまし”を主題とする展覧会に関するドキュメンタリーです。これまた見る者の視覚を欺いてきた後のデ・パルマ作品のテーマとなる重要な題材を扱った作品になっています。 

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『Wotons Wake』 (1962)

 『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN2・黄昏のニューヨーク Greetings』 (1968)

 邦題は2ですが1よりも先に制作されているというサスぺリアに似たややこしい邦題です。意外にもデ・ニーロのデビュー作はデ・パーマなんですね。ベトナム徴兵拒否をあの手この手で繰り広げる自身の体験を基にした青春コメディ反戦映画です(映画『デ・パルマ』によると大抵自身の経験を基に映画を作っているらしい)。ちょっとゴダールやアントニオーニの影響が入っていてご愛嬌です。音楽がビートルズのパチモンっぽいのが時代でしょうか。デ・ニーロとはこの後も『御婚礼 ザ・ウェデング・パーティー』(1969)、『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン/BLUE MANHATAN1・哀愁の摩天楼』(1970)と初期作品でタッグを組んでいます。

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丸眼鏡をかけてちょっとジョン・レノンっぽいデ・ニーロ

悪魔のシスター Sisters 』(1973)

これぞデ・パルマという初期の多重人格サイコホラーです。画面分割による並行世界を錯視的にサスペンスするという自身の映画的欲望に忠実な唯一無二のタッチは、ヒッチコックとは異なる個人映画作家の証としてこの時点から既に完成されています。そして誕生ケーキにはナイフ、ナイフには殺し、殺しには目撃者、目撃者は美女の出生の秘密を探るという話のテンポもピタゴラスイッチ的に実に都合が良いです。このウェルメイドな話の都合の良さの原因は実に単純で、つまりデ・パルマが脚本を書いているからに他なりません。この自分自身で都合の良い脚本を書いてしまうよいう点に関してはスピルバーグのような同世代の職業監督とは異なるデ・パルマの個人映画作家的な特徴かと思います。

そしてこのこの映画にはデ・パルマ生涯のテーマともいうべき円環のテーマが出てきます。それは円い子宮の中にいるシスターズとその延長線上にある円い誕生日のホールケーキで表されます。円環の悲劇はこの後の作品で何度も繰り返されます。 

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ファントム・オブ・パラダイス Phantom of the Paradise』 (1974)

こちらはファウストオペラ座の怪人を掛け合わせたロックオペラです。パラダイスという劇場の閉鎖空間における室内劇が円形の作曲ブースに鎮座する仮面の怪人とメフィストというかマモーみたいなとっちゃん坊や(本当にポール・ウィリアムズがマモーのモデルらしい)の悪魔によって惨劇が発生します。劇場といる閉鎖空間内においてレコード、テープというくるくる回るモノによりデ・パルマ的円環の悲劇が表現されます。 

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くるくる回るデスレコードのオフィス

愛のメモリー Obsession』 (1976)

 『めまい』を基にした世代に渡る妄執に関わるラブサスペンスです(本来であれば近親相姦的なタブーに踏み込むはずだったらしいがさすがに自重したらしい)。バーナード・ハーマンの音楽にヴィルモスジグモントの撮影、そして何よりジュヌビエーブ・ビジョルドのヒロインが素晴らしいです(この映画では学生時代からの友人であるジョン・リスゴーが重要な役で出演していますが、ビジョルドと同じように幼児退行する役を後の『レイジング・ケイン』でも演じています)。

そしてこの映画では15年の時間経過を墓地のシーンとラストでこれでもかと繰り広げられる『めまい』直系の360度パンが圧巻です。『12モンキーズ』とデ・ジャヴなラストでもありますがあれも『めまい』チルドレンな作品ですね。

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『キャリー Carrie 』(1976)

俯瞰からのクレーン撮影に始まり、専売特許ともいえる狭い閉鎖空間でのスローモーションでのシャワーシーン、オーソン・ウェルズのようなパン・フォーカスに『黒い罠』のオープニングのような曲芸的な長回し、『めまい』のような360度パンとありとあらゆる映画テクニックが使用されたスティーブン・キング原作のサイコ・スリラーの金字塔です。ここで特筆すべきは惨劇の舞台が閉鎖された体育館や閉塞的な家庭内でオペラのような祝祭的な装飾の中で行われる室内劇という点です。ちょっと引きこもりなな属性が強いデ・パルマです。 

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デ・パルマ映画にとって鏡に映る姿やモニターは錯視的で信用できません

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豚の血で満たされた円いバケツが悲劇への転換点となります

『フューリー The Fury 』(1978)

『キャリー』に続くデ・パルマの触覚サイキックホラー作品です。サイコキネシスで円形の観覧車をぐるんぐるん回しまくる青年とその青年を触覚により探知するサイキック少女と冒頭カーク・ダグラスにより腕を撃たれ義手となったカサヴェテスが対決します。つまり腕も触覚もない悪役とサイコキネシスという非触覚の超能力を持つ少女が対決するのです。その際、青年の能力は触覚的に少女に伝搬します。果たしてその能力を使った対決の行方は?これは見てのお楽しみです(某クローネンバーグ映画の先駆けではないでしょうか)。

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『悪夢のファミリー The Home Movies』 (1978)

カーク・ダグラスと次作で活躍するナンシー・アレン及びキース・ゴードン出演のサスぺンス・コメディらしいのですが、残念ながら未見です。 


殺しのドレス Dressed to Kill』(1980年)

閉鎖空間でのスローモーションはヒッチでもペキンパーでもないデ・パルマの刻印です。シャワーシーンと同様に閉鎖空間内で引き延ばされるエレベーター内のサスペンスは、歪んだ鏡の中に反射した殺しのドレスの別人格によって惨劇の舞台となります。 

画面分割内のTVモニターによって覗かれる錯視的映像の叙述トリックで引き伸ばされるものもまた、閉鎖空間での俯瞰の惨劇であります。 

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ミッドナイトクロス Blow Out 』(1981)

くるくる回る円環構造大好きデ・パルマ。本作はオープンリール、盗聴テープ、タイヤ、花火といつもより多く回してます(四角い写真だって繋げて回しちゃいます)
当時の嫁で真ん丸顔のナンシー・アレンもまたしかりで、映画は彼女でその円環を閉じて悲劇を完成させます。

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スカーフェイス Scarface 』(1983)

移民からの成り上がりギャングスタ映画としてラッパーにも人気な本作。しかしその実は惨殺や銃撃戦が浴室やクラブや自宅といった屋内に限定される閉鎖空間大好きデ・パルマによる引き篭もり映画です。ちなみにアル・パチーノ演じる妹LOVEな自宅警備員のキャラ設定は元の『暗黒街の顔役(1933年)』からですが、オリジナルでは屋外だったクライマックスの最後をデ・パルマは全て室内に変更していいます。 

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ボディ・ダブル Body Double』 (1984)

 円盤型の建物の中から円筒型の望遠鏡で裏窓を覗き見る閉所恐怖症の主人公は、鏡でボディがダブルに映るポルノ女優を回転ベッドから発見します。くるくる回るめまいパンはこれで一体何回目かと数えつつも、やはりこれがデ・パルマだと納得せざるを得ません。覗きが錯視になるという点に関しても(出発点はヒッチコックでしょうが)やはりデ・パルマならではです。

以下は円い建物の中で回転ベッドや円い望遠鏡で錯視的にのぞくの図です。

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『Wise Guys』 (1986)

ダニー・デビートのコメディらしいですがこれも残念ながら未見です。


アンタッチャブル The Untouchables』 (1987)

床の見える俯瞰と天井の見える仰角の間で起こる惨劇によって悪を追う者もまた罪を犯すという勧善懲悪ではないシニカルな物語(脚本はデビッド・マメット)です。紙マッチのどアップを発端に善悪の彼岸が等価になる暴力性の優位も最後主人公は俯瞰も仰角もない街へと消え、救いがもたらされます。

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カジュアリティーズ Casualties of War』 (1989)

 前作の興行的な成功により作家的自由を得たデ・パルマが選択した題材はベトナム戦時下の米軍による少女強姦を告発する戦争犠牲者を描いた実話です。不条理かつ最悪の状況下で人の善性を代表するかの如きM・J・フォックスの顔が映画を支えているます(ショーン・ペンがM・J・フォックスに何を囁いたかは映画『デ・パルマ』にて語られています)。

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虚栄のかがり火 The Bonfire of the Vanities』 (1990)

豪華ミスキャストによるベストセラー映画化によるブラックコメディです。ゲスい人間を描かせたらバーホーベン並にエゲツないデ・パルマでありますが、この映画ではトム・ハンクスの善人顔がそれを邪魔しています。デ・パルマのコメディは一般受けがよくないというか作家生命を絶たれそうなほどの不評ぶりだったらしいですが、言うほど悪くはないと思います。 

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撮影中のデ・パルマヴィルモス・スィグモンド

レイジング・ケイン Raising Cain』 (1992)

悪魔のシスター』の双生児、『殺しのドレス』性倒錯者に続くデ・パルマの多重人格サイコスリラーの集大成であります。困り顔が可愛い名優ジョン・リスゴーの多彩な顔芸と撮影スティーヴン・H・ブラムによる複雑に設計・計算・実現された完璧とも言える超絶長回しショットが堪能できます。 

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カリートの道 Carlito's Way 』(1993)

 楽園での隠居を夢見る元麻薬王による一人称回想の古典的な犯罪映画です。赤い壁のプールバー、甲板のように楕円なディスコの照明、丸ノ内線のような電車等、赤く彩られた背景と共に贅沢に時間が引き伸ばされたアクションシーンが官能的に展開されます。

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ミッション:インポッシブル Mission: Impossible 』(1996)

 トムの傭兵に徹してデ・パルマ度低いのかと思いきや、グーグルグラスっぽい眼鏡での覗き/盗撮、ルパンっぽい変装によるボディダブル、八角形PCルームの円環趣味、トンネルという閉鎖空間でのアクション、とその作家的刻印は明白なデ・パルマ映画です。尚、映画『デ・パルマ』によるとラストのトンネル閉鎖空間でのアクションはデ・パルマ自身が提案してプロデューサーのトム・クルーズを味方につけてに追加させたそうです。 

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スネーク・アイズ Snake Eyes 』(1998)

閉鎖空間で一つの事件が登場人物それぞれの視点で螺旋的羅生門的に輪舞しながら語られる実験的B級ノワールの傑作で、冒頭から凄まじい長回しが展開されます。ただ、真の円環的クライマックスはボツになった別バージョンが存在していて、それが映画『デ・パルマ』の中で見る事が出来ます。 

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ミッション・トゥ・マーズ Mission to Mars』 (2000)

前半は宇宙船という閉鎖空間内で幸福な無重力円環ダンスから軌道を逸れた夫婦の悲劇で、後半はDNAの螺旋に導かれたパンスペルミア説に基ずくハードSFで円環の連なりである人の種と孤独な男の救済の物語です。ちなみにデ・パルマはガチ理系な人で17歳の時に「微分方程式の解法へのサイバネティックスの応用」という論文(←僕にはいったい何のことやらさっぱりわかりません)で科学博の賞を貰ったりしていたらしいです。 

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ファム・ファタール Femme Fatale 』(2002)

 デ・パルマ自らの脚本でまたしても原点回帰するタイトルもまんまな悪女物ノワール映画です。ただいつもと違うのは最近流行りの「下から見るか横から見るか」的視点で水晶玉の未来からのメッセージが重ね合う並行世界に干渉する『パラダイム』的な世界である事 です。 

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ブラック・ダリア The Black Dahlia 』(2006)

 この映画は50年代に絶滅したフィルムノワールというジャンルに対して21世紀の現在如何に真摯に対峙し得るか?へのデ・パルマの回答と言えます。47年当時のハリウッドをブルガリアに建てたオープンセットに再現し、クレーンを使用した大胆な撮影で実際に起きた猟奇殺人の謎に迫ります。

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リダクテッド 真実の価値 Redacted』(2007)

 ビデオ日誌、ブログ、ニュース、監視カメラ、投稿サイト等あらゆる検閲前映像ソースを覗き見るという体裁でイラク戦時下の少女強姦事件を描く事実を基にした錯視的フェイクドキュメンタリーです。反戦プロテスト映画は『greetings 』以来一貫したデ・パルマのテーマの一つです。歴史(ベトナム戦争=『カジュアリティーズ』)は繰り返すといったところでしょうか。

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『パッション Passion』 (2012)

 デ・パルマ目下の最新作です。歳とって丸くなったかなと思いきや三つ子の魂百迄的なデ・パーマタッチ炸裂の百合サスペンスです。ブロンドと黒髪の美女が広告業界でキャリアと欲望をかけてパワーゲームを繰り広げます。お約束の画面分割は「バレエ牧神の午後」より、たっぷりと”錯視”を堪能できます。

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 ということで、デ・パルマがいかに個人映画作家として頑なに自身の表現として円環と錯視を貫いてきたかを見てみました。 ちなみに映画『デ・パルマ』は御大が自身の全作品について失敗も含めて楽しそうに喋ってくれるというファンにはたまらない素晴らしい映画になっていますのでオススメです。

以上駆け足になってしまいましたが「『ブライアン・デ・パルマ』円環と錯視の王、ほぼ全作品レビュー」でした。

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デ・パルマ』を囲むノア・バームバックとジェイク・パルトローの共同監督

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