2020年映画ベスト(10)
パラダイムシフトという言葉は知ってはいても、実際にそれを体験す
ちなみに100年前といえばスペイン風邪が流行っていたそうですが、ドイツではポー原作、フリッツ・
内容は隠者の警告にも関わらず、
好むと好まざるとに関わらず世界は変わりつつあります。政治の世界では嘘をつくかプロンプターを読むしか出来ない詐欺師や、
なお、デヴィッド・
”コロナ後の世界はよりスピリチュアルでより優しい世界になるでしょう。
それは本当に強く美しい方法でお互いを近ずけるでしょう” ”映画は戻ってきます。全てが元に戻り、
おそらくもっと良い方法で”
まぁ、なんとも瞑想好きなリンチらしい宗教家みたいな発言ですが、前向きで良いではないですか。ポストコロナがリンチの言うような少しでもより寛容な世界にな
……という話はともかく、
今年はニュースばっかり見てて映画はあんまり見てないんですよね。という事で今年は個人的な2020年映画重大ニュースからベストを。
■ジョン・フォード初期長編デビュー作がBD化される
『Straight Shooting(誉の名手)』(1917)
まぁ、一生見る事もなかろうと思っていたフォード初長編(62分)シャイアン・ハリーシリーズ一作目がこれ以上望むべくもない4K美麗レストアで北米版BD化。いきなり木の枝の上で手芸してるヒロインと木の幹の中から現れるお尋ね者の主人公。樹木は最初からフォードお気に入りの背景装置である事が確認できます。
『砂に埋もれて/Hell Bent』(1918)
『誉れの名手』同様に倉庫火事で長年現存せずと思われていましたが、チェコで独語版プリントが発見され、最近4K修復されたフォード最初期の一本。
冒頭の絵画へ接近して実写への場面転換、砂漠で背景のみが蜃気楼のようにオーバーラップする等の実験的な技巧が見られ驚きます。他にも牛の群れや深い切り通しを背景にしたロングショットや、帽子を使った決定的な瞬間を見せないガンアクションや、一軒家が敵に包囲されるグリフィス的な籠城シーンや、水しぶきを立てて川を横断する騎馬等、23歳のフォードは最初から美しいという事が確認できます。
■山中貞雄現存3作品4Kレストア
『丹下左膳餘話 百萬両の壺[4Kデジタル復元・最長版]』(1935)
『河内山宗俊[4Kデジタル復元版]』(1936)
『人情紙風船[4Kデジタル復元版]』(1937)
リュミエールでさえも鮮明に修復可能なのだから山中も可能な筈と常々思っていたので実に待望のレストアです。画は長屋を歩く人の影や着物の質感が増して立体感伴う鮮明さ。音も台詞/伴奏共にクリアで申し分ありません。しかしこの決定的なアクションを省く天才的な話術の素晴らしさを改めて目の当たりにすると映画は1935年より進歩するどころか退化してしまったのではないかと頭を抱えてしまいます。それはともかく修復に尽力された方々に感謝です(以下はそのレストアの詳細を記した記事の前編と後編)。
■黒沢清監督の『スパイの妻』がベネチア銀獅子賞に
㊗️我らが黒沢清監督が『スパイの妻』でベネチア銀獅子賞受賞!という事で2020年の映画ニュースでこんなに嬉しいことはありません。作品自体も素晴らしく、流麗な移動撮影によるモブシーン、廃墟内の金庫に隠される秘密、直接/間接的に引用されるフィルム達、背景逆光の電車、歪な夫婦愛、と言った黒沢映画を彩ってきた不穏さが第二次大戦直前の閉塞的でファシズム的な不穏な時代の雰囲気と現代日本の居心地の悪さに見事にシンクロしており、お見事です。またこの作品が公開された2020年10月はSPP/パロディアス・ユニティの盟友万田邦敏監督の『愛のまなざしを』が東京フィルメックスで公開されたり(2021年公開)、映研出身の青山真治監督『空に住む』といった素晴らしい作品が公開されたりと立教大学映画表現論の精神的継承者達とでも言うべき人々の充実した仕事ぶりをスクリーンで堪能する事ができました。
■女性映画監督作品による新たな視点の獲得
特に殺人の映画を撮るのに殺人者である必要性は無いのと同様に、女性映画を撮るのに女性である必要はないのですが、昨今の女性映画監督作品の素晴らしさをみるにつけ、我々は女性による女性映画という世界の半分を占めるであろう映画の愉しみを昨今まで奪われ続けていたのではないかと思わされます。特に今年は誰もが知る既存の古典を女性視点で多重に再構築したグレタ・ガーウィグ監督『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』、パーソナルな視点でに水面境界下の光のストリームや気泡や塵がノイジーに拡散する運動を捉えた小田香監督『セノーテ』、旧作ですが年末の特集上映で見る事ができ、普通に公開されていればその年のベストに選ばれていたであろう傑作揃いのケリー・ライカート(ライヒャルト)監督の『リバー・オブ・グラス』(1994年)、『オールド・ジョイ』(2006)、『ウェンディ&ルーシー』(2008)、『ミークス・カットオフ』(2010)(中でも本作は映画的才能を欠いたタランティーノがワーストに選んでいる事からも明らかなように、西部劇を新たな女性の視点によって捉えた必見の傑作です)、といった映画的才能に満ちた素晴らしい作品に出会えました。もっと数が増えていけば”女性映画監督”といった分類すら不要になる程に当たり前の存在になって、さらに新たな視点による新たな世界の再構築が進んでいく事を望みます。
■リモート映画の誕生
リュミエールの『工場の出口』(1895)から125年経ちましたが、まだ映画表現には新たな手段が残されているという事を教えてくれたのが高橋洋監督の『彼方より』というweb公開された短編です。コロナ禍の不自由さを逆手に取ったリモート映画という新たな映画の発明の誕生を目の当たりにして唖然として衝撃を受けてしまいました。
その他の作品では『パリ、テキサス』や『悪魔のいけにえ2』の脚本家としても有名なL・M・キット・カーソンが監督に名を連ねる『ラスト・ムービー』編集時の貴重なドキュメンタリーである『アメリカン・ドリーマー』(1971)、
ロッセリーニ的な新たな領域へと一歩足を踏み出しているのかの如く、市井の一般人が行う英雄的行為とそれにに伴う悪夢という近年の実録路線に連なる悲劇作家としてのイーストウッドが見れる『リチャード・ジュエル』(2019)、
線路沿いのナイトクラブ+ギャラリーを舞台に『たそがれ酒場』よろしく様々な人々の人間模様を見せるアモス・ギタイの群像劇『ハイファの夜/Laila in Haifa』(2020)、
ラストベルト貧困層を舞台に家族との確執を巧みにドキュメンタリーのようなリアルさで描くロン・ハワードの『ヒルビリー・エレジー ー郷愁の哀歌ー』(2020)、
アニメではTVシリーズでフィリップ・K・ディックのような偏執病・統合失調的なインナーワールドで連続殺人鬼を追うスリップストリーム探偵物のあおきえい監督『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』(2020)等が印象に残りました。
以上2020年映画ベスト(10)でした。