2023年映画ベスト10

①ファースト・カウ(2019) 随分と待たされて期待値MAXになっていたけれど、これはその期待を超える傑作でした。ある意味ジョン・ヒューストン的ともいえる西部劇としてはよくある一攫千金の題材が、ケリー・ライカートの手にかかるとマチズモとは真逆の印象…

2022年映画ベスト10

【第1位】『ジョン・フォード論 』(2022年) 「パリのシネマテークがまだシャイヨー宮にあったころ…」といきなり始まった2022年7月23日シネマヴェーラで行われた蓮實重彦氏のトークショーは、『プリースト判事』(1934)を見に行ったら席の隣に犬が座ってて、な…

2021年映画ベスト10

2021年はモンテ・ヘルマンの新作への希望が永遠に断ち切られた絶望の年であり、一方その影響下にあるケリー・ライカート作品が一般公開された希望の年でもありました。ということで早速2021年のベストです。 【第1位】『リバー・オブ・グラス』(1994年…

2020年映画ベスト(10)

パラダイムシフトという言葉は知ってはいても、実際にそれを体験する世界が自分に訪れるとは考えてもいなかった2020年。ワンチーム!とか言って浮かれていた去年の自分に「来年は100年振りのパンデミックで世界が一変するよ!」とデロリアンに乗って警告して…

2019年映画ベスト10

世の中の公開されてる映画は多過ぎて見れない!(某CM風)...という言い訳はさて置いて、2019年も旧作ばかりに足が向いてしまい新作は好きな監督以外はあまり見れていないのですが、それでも素晴らしい作品が色々とありましたので10本(+α)を記しておきた…

2018年映画ベストテン

今年は小津やラングやアルドリッチやベルトルッチといった旧作ばかり見ていて、ますますもって新作チェックを怠り浮世の流れがつかめなくなってしまいましたが、数少ない新作鑑賞の中で印象に残ったものを挙げてみます。おそらく映画のデジタル化の恩恵によ…

『フリッツ・ラング』鏡の国の冥界の秘密(米時代全検証レビュー)

映画監督に著作権は無くともその刻印は存在します。フリッツ・ラングにおける鏡はこれ見よがしに演出されるのではなく、さもそこに在る事が当然のような正確さで実務的に対象を反射しています。それはアクション、サスペンス、ロマンスといったジャンルを問…

小津安二郎のサイレント時代全レビュー ~萌えモダニズムと見返り美人の韻画リズム~

小津安二郎のサイレント時代 1927年デビューから1936年までに小津は35本のサイレント映画(音響版を含む)を撮っていますが、その内現存するものが残念な事に約半分の17本。同時期の山中貞雄に比べればマシな方だという事もできますが、これはやはり残念とし…

2017年映画ベストテン

遅ればせながら2017年度のベスト10を。2017年は清順さんやトビー・フーパーの訃報という悲しい知らせもありましたが、ジャン・ピエール・メルヴィルやキン・フ―といった素晴らしい作家の素晴らしい作品に触れることができる年でもありました。新作はあまり見…

『ブライアン・デ・パルマ』円環と錯視の王、ほぼ全作品レビュー

今年はドキュメンタリー映画『デ・パルマ』(ノア・バームバックとジェイク・パルトローの共同監督)が公開されると言うこともありデ・パルマ作品を色々と見直していたのですがどれも面白いですね。一般的には当たりハズレが大きいと言われているデ・パルマ…

『ミニー&モスコウィッツ(1971年)』~ 孤独な男と女を祝福するカサヴェテスのラブスプリーム

アメリカ映画には偉大なJ・Cが二人いる。一人はジョン・カーペンター、もう一人はジョン・カサヴェテスだ。 と、引用すると誰か偉い人が言った名言のように見えるかのテストです(誰もそんな事は言ってないと思いますのでとりあえず僕が言っておきました)…

『マッドボンバー(1972年)』〜 オ・ソロシ巨人B・I・G(バート・I・ゴードン)によるB級映画の快作

最近特に何の予備知識もなくBS(シネフィルイマジカ)でやっていた本作を見てしまったのですが、これが思いのほか大変素晴らしく「ああ、これは映画だ」、とごく当たり前の感想を持ちつつもいたく感動してしまいましたのでここでご紹介させていただきます。 …

未知の映画監督ジョナサン・デミ(とフランソワ・トリュフォーとハイチの関係)

4月26日、やけに羊たちの沈黙のツイートが多いなとぼんやりとtwitterを眺めているとR.I.Pの文字が目に飛び込んでくる。まさかと思い他のツイートを見ると同じ事が書いてある。なんてこった、嘘だろ・・・と思う。twitterはいつも最新のニュースを届けてくれ…

『キングコング(1933年)』 ~ 彼について私が知っている二、三の事柄

いよいよ実写版『美女と野獣』が公開されますが、『美女と野獣』以上に美女と野獣をことさら言及する映画、それが1933年版『キングコング』です。しかしこの映画は映画内で一体何回美女と野獣を言及しているのでしょうか?暇な人は数えてみてください(なん…

『キングコング(1933年)』 カール・デナムとは一体何者なのか? ” 華麗なるヒコーキ野郎”と”カメラを持った男”の物語

今回のスピンオフの話はさておいて、1933年のオリジナル版キングコングを見返すとこれが今みても大層生々しいタッチ、かつ暴力的(象のように人を踏み、虎かはたまた進撃の巨人みたいに人を食らいます)で矢鱈滅多らと面白い事に驚かされます。 なぜこんなに…

攻殻機動隊の世界が5年後に実現? ~ <今そこにある未来ニュース⑥>

最近この人の名前をニュースで見ない日はないですね(と半年前も同じこと書いてましたが...)。若きカリスマ天才起業家”リアル”トニー・スタークこと「イーロン・マスク」。 またもやこの人のニュースです。 今度は攻殻機動隊みたいに脳とコンピュータの…

『花吹雪舞う!春の鈴木清順幻の作品祭り』 ~ 具流八郎との空白の10年:怒濤編

前回のあらすじ 1968年のいわゆる「鈴木清順解雇・封鎖事件」は学生運動のデモも巻き込んで「鈴木清順問題共闘会議」を結成し、多くの映画人を巻き込んだ日本映画界を揺るがす一大騒動と化していました。 一方具流八郎は共闘会議とは距離を置き(*1)、大島…

『花吹雪舞う!春の鈴木清順幻の作品祭り』 ~ 具流八郎との空白の10年:疾風編

いつかその日が来るだろうとは思ってはいても実際にその日が来てしまうとやはり結構ショックだったりする清順さんの訃報(2017年2月22日)。本来であればしめやかに追悼すべきなのですが、既に発表の時点で9日もタイミングを逸している始末(同年2月13日満93…

恐るべし!元が何だかよく分からないポーランドの映画ポスター

最近『モアナと伝説の海』のポスターがオリジナルと違い過ぎると話題になっているようですが、映画ポスターのデザインが公開される国によって変わるのは至極当然のことであります。もともと違っていて当たり前なのでその事に目くじら立てるより、むしろそこ…

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件(1991年)』~ 25年前の撮影風景

よく”伝説の傑作!”とか”××年に1本の傑作!”とか映画の宣伝に使われる惹句は話半分であまり信用できないものが多いのですが、これはまさに掛け値なしに”25年に1本の伝説の傑作”といえるのが『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件(1991年)』という作品で…

天才アニメーター「うつのみや理(さとる)」さんのおすすめ作品5選

大好きなアニメーターさんシリーズでうつのみや理(さとる)さんについて書きます。その個性の強さゆえに一連のテレビシリーズの中では際立って浮いてしまい物議をかもす事もありますが、その省略されたキャラのシンプルさとフルアニメーションのようなリア…

天才アニメーション作家”湯浅政明”さんのおすすめ作品5選

2017年は4月7日に星野源さんが主人公の声を演じることで話題の『夜は短し歩けよ乙女』が、5月19日には自身初となるオリジナルアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』が公開と、年に二本も、しかも矢継ぎ早に二ヶ月連続という前代未聞のインターバルで…

『ケモノヅメ(2006年)』~ ボブ・ピークとタイガーマスクと桃太郎の延長線上にあるエロティックバイオレンスホラーラブコメディ

今年は4月7日に映画『夜は短し歩けよ乙女』が、5月19日には自身初となるオリジナルアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』が公開と、年に二本も、しかも矢継ぎ早に二ヶ月連続という前代未聞のインターバルで劇場用映画が公開されるという、湯浅政明監…

『祇園の姉妹/Sisters of the Gion(1936年)』〜溝口健二監督の女性ハードボイルド・和風ノワール映画

フィルム・ノワール及びハードボイルド映画というと1941年の『マルタの鷹』を起源とすることが多いようですが、それに遡る事5年前の昭和11年の日本において女性を主人公としたハードボイルド映画が存在していたことをご存知でしょうか?。それが今回ご紹介す…

『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(2016年)』 ~ ティム・バートンの奇妙な落書きたち

「ティム・バートンの世界」のデッサン 2014年の11月1日から2015年1月4日まで行われていた「ティム・バートンの世界」展。当方はマヌケなことにちゃんと日程をチェックしておらず、ノコノコと最終日に出かけてしまったのですが、そのあまりの人の多さに驚嘆…

フリッツ・ラングとセルゲイ・エイゼンシュテイン 〜 『メトロポリス(1927年)』のセットより

遅ればせながらつい最近ツイッターを始めたのですが、なるほどこれは面白いですね。毎日自動画像収集装置botとしてけな気に働いてくれて、非常に役立ってくれています(←早くも使い方間違ってるかも)。 特に映画関連ではクラシックな名作の撮影現場の監督の…

巨匠ヴェルナー・ヘルツォークのおすすめ作品5選

ニコール・キッドマン主演で話題の『アラビアの女王 愛と宿命の日々 / Queen of the Desert (2015年)』の近日公開(1月21日(土)より新宿シネマカリテ、丸の内TOEIほか)を記念して、狂気を描かせれば右に出るもののいない巨匠ヴェルナー・ヘルツォークのお…

レイア姫はなぜ銃を持つのか? ~ スター・ウォーズとリイ・ブラケットとハワード・ホークス的三角関係

つい最近スクリーンでその"若々しい姿"を見たばかりなのにそんなことが起こりうるとは微塵も想像しておらず、未だに何か信じられないキャリー・フィッシャー(*1)、及びその翌日のデビー・レイノルズ(*2)の訃報ですが、思えばあの"若々しい姿"は何かフォ…

2016年映画ベスト10

年末ですので2016年映画ベスト10をやっておきます。新作は見てない方が圧倒的に多いのですが、今年見れた数少ない新作映画の中から自分の好きなおすすめの映画を10本(または15本)選んでお伝えします。 では洋邦合わせて1位から。 1位:『ハドソン川の奇…

『北の橋 (1981年)』 ポケモンGO的AR(拡張現実)でパリの町を冒険する最高にキュートなファンタジー・ミステリー映画

2016年を代表するヒット商品であり、あっというまに世間を席巻して、あっと言う間にブームが過ぎ去った感のあるポケモンGOですが(今だと話題はAmazon GO?*1)、これに遡ること35年前にポケモンGO的AR(拡張現実)でパリの町を冒険する最高にキュートなファ…