『ケモノヅメ(2006年)』~ ボブ・ピークとタイガーマスクと桃太郎の延長線上にあるエロティックバイオレンスホラーラブコメディ

今年は4月7日に映画『夜は短し歩けよ乙女』が、5月19日には自身初となるオリジナルアニメーション映画『夜明け告げるルーのうた』が公開と、年に二本も、しかも矢継ぎ早に二ヶ月連続という前代未聞のインターバルで劇場用映画が公開されるという、湯浅政明監督ファンにとっては盆と正月がいっぺんに来るくらいの嬉しい年になりそうです。 

ということで今ノリにノっている日本アニメーション界でも突出してユニークな天才アニメーション作家、湯浅政明さんの監督作品をいくつかご紹介したいと思います。先ず今回はこの作品から。


 『ケモノヅメ(2006年)』
(原作・監督・シリーズ構成・脚本・絵コンテ・演出)

湯浅さん初のオリジナルア二メーションでWOWOW深夜枠R-15指定のスプラッターでハードコアな1クールのアニメシリーズです(リーマンショック前といえどもWOWOWもよくこんな大胆な企画を通したもんです。今は萌えアニメやってて隔世の感ですが)。

物語の背景は番組アバンで少し語られます。

第一話:アバン

太古、まだ神が生き物の姿をとどめていた時代、捧げらた生贄の女を奪って逃げた男がいた。神の怒りを買った二人はすぐさま人を食わねば生きていけぬモノノ怪と化せられた。運命を呪いながらも二人は生き続け、その子孫は人と交わりながら今も人間界でひっそりと暮らしていた。

 

第二話:アバン

太古、まだ神が生き物の姿をとどめていた時代、蛮行を繰り返す食人鬼を切り捨てる一団が現れた。食人鬼の命である両腕を切り落とし、とどめを刺す、その熟練された腕は時代と共に闇に隠れたが、今なお秘密裏に受け継がれていた。それを愧封剣という。

上記70年代風の時代劇/アクションTVドラマのノリのナレーションとオープニングで始まる本作、”愧封剣”というを狩る道場の跡取りで主人公の俊彦が食人の上月(かみつき)由香と禁じられた恋に落ちて禁断の逃避行を繰り広げるというホラーとも昼メロとも冗談とも本気ともとれぬ話が大まかな導入部の物語です。

ジャンルとしては深夜枠といえどもそこまでやっていいの?的な猟奇展開(ヒロインの由香はナタキン版の方の『キャット・ピープル(1982年)』のように性行為で食人ケモノヅメに変身して愛する俊彦を食べようとする設定)ありのスプラッターなエロティックバイオレンス物であり、

武術家より優れたおサルや5~6メートルもありそうな人間が普通に出てるく出てくるコメディ、三角関係によるキャットファイトもあるメロドラマ的なラブコメ物であり、

主人公は常に日本刀を持ち歩き(トラウマ持ちのためあんまり役に立っていませんが)、その弟はロボ(バスターマシン)で戦うアクション物である等々、サービスてんこ盛りであるにも関わらず絶対地上波では放送出来ないであろうハードコアな描写も多い知る人ぞ知るカルトなアニメです。

さらに絵の方も後述する木村圭市郎さん風のタイガーマスク的劇画タッチの中に亜細亜堂風ともカートゥーン風ともいえる湯浅さんタッチのサルのキャラがからんだり、原画や作画監督の個性によってそれぞれのエピソードの絵柄がガラッと変わったりと混沌としたシリーズになっています。ちなみに湯浅さんが最近作られた会社が「サイエンスSARU」でツイッターのアイコンもサルですのでよっぽどサルがお気に入りなのでしょう。

尚、退治がテーマで主人公が桃太郎侍的な剣士、サルをお供(師匠ですが)となるとまんま”桃太郎”の昔話になります。となるとキジはダイビングで空を飛ぶ”由香”、サルは探偵の”ぼん”ということになるのでしょうか。 キビ団子は桃太郎ではなく、敵のが仲間を増やすドラッグとして使用されています。ということで基本寓話的なおとぎ話要素ではあるんですけれども、とてもお子様に見せれるようなアニメでは全くございませんのでご注意ください(念のため)。 

主要回各話見どころ

それでは以下主要回各話の(主に作画的な)見どころを簡単に。

第一、二話:湯浅さん脚本/コンテ、伊藤伸高さん作監回(最終話も)。かなりハイレベルな作画回です。このハイレベルが全回続けば申し分ないのですがそこはやはりジャパニメーションのテレビシリーズ、間にグロス回が入ります。

第三話:アバンタイトルが僕の大好きなうつのみやさとるさんです(ほんの数秒ですが)。

第六話:ウニョンさん作監回。何の説明も無しに5~6メートルもする探偵の”ぼん”が登場する回です(実はこの”ぼん”が本当になりたかったものが伏線になっていたりします)。

第八話:18禁でも良さそうなSM監禁拷問回です。

第九話:珍しい女性のみ(鍋田香代子、 石井百合子、中西 彩、宮脇千鶴)の原画回。この回だけ絵の繊細で優しく美しい感じが出ています(オチ以外)

第十話:『モノノ怪』の若林健治さんコンテ回。最近のポップなコメディ路線からは想像つかないATGな感じですがやはり一風変わった演出センスがあって素晴らしいです。

第十二話:脚本/コンテ/演出の高橋敦史さんと一人原画(さらに動画も)の三原三千男さんの二人しかクレジットされていない伝説の神回。

第十三話:混沌としつつも意外な伏線もキレイに回収さた最終回。

 

絵も物語もかなりみる人を選び賛否別れる作品だと思いますが、総じて見るとハイレベルな宣伝文句通りのエロティックバイオレンスホラーラブコメディだと思います。

 

尚、本作に関しては僕の紹介文よりも以下のWEBアニメスタイルに貴重な情報がたくさんありますのでそちらのリンクをご紹介させていただきます。

 

・湯浅監督自身のコラムより(以下は企画書に使用された初期の絵だとか)。

WEBアニメスタイル 「帰ってきた週刊ユアサ」

http://www.style.fm/as/05_column/05_column_img/yuasa_r01.jpg

・貴重なキャラ設定も見れます。

WEBアニメスタイル 【artwork】『ケモノヅメ』キャラクター設定

http://www.style.fm/as/02_topics/02_topics_img/kemono1_1.jpg 

http://www.style.fm/as/02_topics/02_topics_img/kemono2_3.jpg

http://www.style.fm/as/02_topics/02_topics_img/kemono2_5.jpg

・三原三千夫さんの一人原画の話しはこちら

WEBアニメスタイル_アニメの作画を語ろう 三原三千夫(3)『Paprika』から『ケモノヅメ』へ 

 

ボブ・ピーク(Bob Peak)とタイガーマスクの延長線上にあるケモノヅメ

あとこれは全くの余談になりますが同サイトの木村圭市郎さんのインタビューでボブ・ピークにの影響に関する話しがありましたのでこちらも少々引用させて頂きます。

WEBアニメスタイル_アニメの作画を語ろう 木村圭市郎(2)

――『タイガーマスク』のロマンアルバムで、ロバート・ピークの絵を参考にしたとコメントなさっていますけど。それはどういう作家さんなんですか?
木村 ロバート・ピークっていうのはイラストレーターで、ボクシングとかフットボールとかのスポーツのイラストを描いていたんだ。で、そのタッチを取り入れたんだ。ロバート・ピークを略して、ボブ・ピークっていうんだけどさ。
――アメコミとかじゃないんですね。
木村 アメコミじゃない。講談社のフェーマス・アーチスツ・スクールのテキストにも、イラストが載っていたよ。それを見てさ「これは格好いいな」と思った。「マイ・フェア・レディ」のポスターなんかも描いているよ。
――なるほど線が粗くて、わりとお洒落な感じなんですね。
木村 アニメとしては『タイガーマスク』が、ああいうタッチのハシリだったよな。後で、タッチを真似たした作品が出てきた。

つまり『ケモノヅメ』に関しては”ボブ・ピーク”→”木村圭市郎”→”湯浅政明・伊藤伸高”という一連の絵の上手いアーティストの影響の連鎖が連面と今も続いているということで大変興味深いです。

 


(おまけ)ボブ・ピーク(Robert "Bob" M. Peak  May 30, 1927 – August 1, 1992)に関して

非常に美しい映画ポスターを描かれる方です。1950年代はコカ・コーラの広告等のイラストで有名になり、映画のポスターは1961年の『ウエストサイド物語』からだそうです。

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/736x/c7/db/76/c7db761b7ad0eb55eece07a214648eb0.jpg

以下はtwitterで集めたものですが一枚目の『キャメロット(1967年)』なんかクリムトっぽくて非常に美しいです。『ザ・ヤクザ(1974年)』なんかもシンプルで惚れ惚れします。有名な『燃えよドラゴン(1973年)』もこの人だったんですね。

以下に上記の話しに出てくる「マイ・フェア・レディ」のポスターがあります。洗練された線のイラストポスターです。

スター・トレッククリント・イーストウッドのポスターでも有名です。 この頃は光線が尾を引く描写が特徴的です。『地獄の黙示録』の一連のポスターなんかも同様に印象的な光線の美しさを表現しています。

 広告やイラストっぽい絵だとこんな感じで洗練されています。

ボブ・ピークのドローイングは本が出ているようです(一枚目)。木村圭市郎さんのドローイング(二枚目は最近のキックスタート企画のもの、三枚目は木村さんの会社ネオメディアTwitterのアイコン、四枚目はタイガーマスクのドローイング同人表紙)もその影響が見てとれます。

 あとここらへんにも広告のドローイングが見れます。

http://www.americanartarchives.com/peak,b.htm

 

 以上ボブ・ピークとタイガーマスクと桃太郎の延長線上にあるエロティックバイオレンスホラーラブコメディのお話しでした(←短くまとめる気無し)。 


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