ローラン・トポール ~ 『ファンタスティック・プラネット』だけじゃないその多彩で多才な超ブラック・ユーモア作品世界

僕にとってローラン・トポールRoland Topor:1938-1997)というと『ファンタスティック・プラネット』の作画の人というぐらいの認識しかなかったのですが、ググってみると小説家(*1)、イラスト・風刺画家/アニメーション作家(*2)、前衛演劇家(*3)、さらには役者(*4)とかなり多才な人だったみたいでです(しかも上記の当時の欧州の名だたる変態さん達・・・失礼、間違いまみた。芸術家さん達の間を触媒的に横断し、八面六臂に活躍していたようです)。

まぁ、印象としてはざっくり寺山修司ルネ・マグリットルイス・ブニュエルを足して3で割った感じのちょっと不条理で嗜虐的でエロティックで奇想的的且つ露悪的な感じの作品を作る人みたいです。本の方は絶版でもまだ中古で入手可能な作品も多いようですので、その世界をちょっとかいまみてみてみましょう(※wikiの写真は見るからにアブなそうな感じの人ですけど『カフェ・パニック』の後書きによると、実に繊細で心優しい人らしいですよ。以下18禁で)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/thumb/4/40/Roland_Topor.jpg/220px-Roland_Topor.jpg

『 マゾヒストたち(1960年)』(澁澤龍彦編)

基本僕は残酷なのや痛そうなグラン・ギニョール系やカルト系は苦手なのですがトポールの絵はユーモア(超ブラックですが)があるので見れてしまいます。ホラー映画でもフーパーとかライミとか残酷さをユーモアに昇華しているものは普通のホラーよりポイント高いです。

この本のユーモアのパターン的には表紙や背表紙に書かれているような見るからに残酷で痛そうなストレートなものと、次に起こる決定的な出来事を想像してしまう二つのパターンがあるようです。いずれにせよ不謹慎なんですけどその奇想的な発想にクスッと笑えるのがトポールの一コマ漫画の魅力です(一瞬笑っていいのか自分の倫理観が試されるのがなんともブラックです)。  あとモンティ・パイソンとか好きな人にもオススメです(髭剃りで顔削るネタはテリー・ギリアムの髭剃りで首削るネタと被ってますね)。

 <表紙と背表紙>

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<「マゾヒストたち」本編より>

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『死んだ時間(1964年)』

ルネ・ラルーとの初共同作品の短編映画です(テキスト:ジャック・ステルンベール)。ニュース映像っぽい実写とトポールの絵がシュールにカットアップされたシネコラージュ風作品です(※グロ注意)体が石膏像のように欠ける描写も既に入っています。

尚、翌年に共同制作の『かたつむり(1965年)』は『ファンタスティック・プラネット(1973年)』の特典で見れます。

ルネ・ラルーの後年の作品を見る限り、ファンタスティック・プラネットの僕が好きな部分はローラン・トポールの感性に依る物が大きいように思えます。

<死んだ時間:Les Temps Morts>

www.youtube.com 

 『ファンタスティック・プラネット』に関しては以下に少しだけ書いています。まぁ、百聞は一見に如かずなファンタスティックとしか言いようがないアニメーション映画の名作です。

callmesnake1997.hatenablog.com


『幻の下宿人(1964年)』

『ジョコ、記念日を祝う(1969年)』 

トポールは短編以外で10本くらい小説を書いているようで(Roland Topor — Wikipédia)、その内の二編が『ブラック・ユーモア選集』1巻に収められている『幻の下宿人』と『ジョコ、記念日を祝う』です(『幻の下宿人』単発の本も有り)。読んでみるとどちらも平易な文章の積み重ねで読者を狂気に導くなかなかの文才です。

『幻の下宿人』は訳あり物件のアパートメントに引っ越してきた男が巻き込まれる不条理サイコホラーで、騒音問題という共同住宅ではどこにでも起こり得るリアルなシチュエーションが徐々に黒沢清の『クリーピー』やジョン・カーペンターの『マウス・オブ・マッドネス』の如く狂っていく、凄まじくも古典的な怪奇小説です(ポランスキーの映画版は驚く程原作に忠実です)。 

callmesnake1997.hatenablog.com 

『ジョコ、記念日を祝う』は不条理演劇っぽい笑劇(ファルス)かと思いきや、やはり凄まじい狂気の展開が待っているという、形容不能な変態(変体?)小説です。実写化不可能のような小説にも思えますが、デヴィッド・クローネンバーグであれば面白い映画にしてくれるかもと妄想してしまいます。


『リュシエンヌに薔薇を(1967年)』

ブラック・ユーモア傑作漫画集( 1971年:刊)』

『リュシエンヌに薔薇を』は短編集というより、一行から数ページのものも含む奇想ショートショート集です。一本目の「スイスにて」はその筋(?)では有名な話みたいですね。星新一をさらにブラックにした感じと言えば分かり易いでしょうか。

その星新一が前書きを書いた(これ読んだ事あるけど何処でなのか思い出せない)『ブラック・ユーモア傑作漫画集』にはマグリットっぽいシュールで幻想的なものから例によって体をバラバラにする嗜虐的なモノまで掲載されています。掲載されているものの中ではやはりトポールの作品がダントツで面白いですね。  

尚、この本をググって見つけたのですが作家の関田 涙さんが「新ヴィッキーの隠れ家 読書感想文」というブログにて上記2作品を詳しく紹介されています。他の書評も面白く、おススメのブログです。 

sekitanamida.hatenablog.jp 

<「ブラック・ユーモア傑作漫画集」より> 

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『カフェ・パニック(1982年)』

38編からなる「パニック」という名の飲み屋(カフェ)で人名ではないあだ名のついた人々(『《気儘車輪》と《今夜は駄目よ》と《銀行秘密》の話』のような感じです)によって語られるほら話、ホラー話、おばか話のショート・ショート集です。

一般的なブラック・ユーモアという意味では一番それらしい気軽に読める作品かと思います(とは言っても超ブラックで笑えない話や、日本語訳では意味不明な話もありますが)。全編ではありませんがトポール(本書ではトポル名義)のイラストが 11編ほど付いています。 

 


 その他:

大島渚の『愛の亡霊(1978年)』やフォルカー・シュレンドルフの『ブリキの太鼓(1979年)』、寺山修司の『上海異人娼館(1981年)』のフランス版ポスターもトポールの仕事です。

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他にもテレビ、ラジオ、演劇/オペラ等、多彩に活躍していたようですがちょっと全貌がつかめません(この多才ぶりな点も寺山修司を想起させます。類は友を呼ぶというかこの時代、同時多発的に直接・間接的に影響(*5)し合っていたのかもしれません)。


*1:初の長編『幻の下宿人(1964年)』はトポールと同じポーランド系フランス人であるロマン・ポランスキー監督の『テナント/恐怖を借りた男(1976年)』の原作

*2:ウィリアム・クラインの『ポリー・マグー お前は誰だ?(1966年)』のエンディングやフェデリコ・フェリーニ の『カサノバ(1976年)』の幻燈原画を担当

*3:1962年、フェルナンド・アラバール、アレハンドロ・ホドロフスキー、ジャック・ステルンベール等と共にパニック・ムーヴメント(パニック芸術運動」)のグループを結成

*4:ドゥシャン・マカヴェイエフの『スウィート・ムービー(1974年)』やヴェルナー・ヘルツォークの『ノスフェラトゥ (1979年)』のレンフィールド役で出演

*5:寺山修司が影響を受けたフェルナンド・アラバールの映画処女作『死よ、万歳(1970年)』にはトポールのイラストが使用