”地球外知的生命体探査”に関する傑作SF作品5選【ボイジャー編】

スタートレックの新作があまりにつまらなかったので映画版第一作(TMP)が相対的に傑作に見えてしまうというイヤミな話(JJはこのまま二大SFシリーズを糞化させた戦犯として後世の映画史に名を残すつもりなのか?)を書こうと思ったのですが、タイトル時点で既に重大なネタバレを起こしてしまったことに気づいてしまいました。未見の方ごめんなさい。以下ネタバレ全開で書いてしまいます。ボイジャーに関連する作品の話を作品内時系列順にて。


プロローグ:1977年8月20日、9月5日

まずはボイジャーとはなんぞやという話から。

ボイジャー計画 - Wikipedia

ボイジャー計画(ボイジャーけいかく、英: Voyager program)は、アメリカ航空宇宙局(NASA)による太陽系の外惑星および太陽系外の探査計画である。2機の無人惑星探査機ボイジャー(英: Voyager)を用いた探査計画であり、1977年に打ち上げられた。惑星配置の関係により、木星土星天王星海王星を連続的に探査することが可能であった機会を利用して打ち上げられている。1号・2号とも外惑星の鮮明な映像撮影に成功し、新衛星など多数の発見に貢献した。

ボイジャー1号は地球から最も遠い距離に到達した人工物体で今現在も太陽圏外を飛行中です。運用も続いていて原子力電池が使用可能な2025年頃まで観測できるらしいです。孤独に文句も言わず40年近く働き続けているけな気なヤツですね。たぶん他の恒星系にたどり着くであろうと言われている4万年後も飛び続けているんでしょう。まぁ、もっともその頃には人類は衰退してるんでしょうけどね。

ボイジャーのゴールデンレコード - Wikipedia

ボイジャーのゴールデンレコード (Voyager Golden Record)、またはボイジャー探査機のレコード盤とは、1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機に搭載されたレコードである。パイオニア探査機の金属板に続く、宇宙探査機によるMETI(Messaging to Extra-Terrestrial Intelligence)=Active SETI(能動的な地球外知的生命体探査)の例である。

地球の生命や文化の存在を伝える音や画像が収められており、地球外知的生命体や未来の人類が見つけて解読してくれることを期待している。

このレコードにはバッハやモーツァルトやベートーベンのようなクラシックや民族音楽(日本は尺八)の他にもロック(チャック・ベリーの"ジョニー・B.グッド"、ビートルズはEMIに断られた)やブルース、あるいは波、風、雷、鳥や鯨など動物の鳴き声などの多くの自然音も入っているそうです。これはカール・セーガンの趣味なんでしょうけど、今選んでも大して変わらない妥当なセレクションではないでしょうか。

いずれにせよボイジャー及びゴールデンレコードがたとえ人類が滅びても人類の存在と文化を示す音や画像を載せて地球外知的生命体の発見を待ってずっと宇宙を飛び続けているというのはなかなかロマンティックで夢のある話ですね。

以上お勉強おしまい。


コスモス(1980年)』

コーネル大学教授で惑星科学の研究室を持ち科学啓蒙書やSF小説を執筆したカール・セーガンによる言わずと知れた科学ドキュメンタリー番組の金字塔です。36年前の番組ですが今見ても面白いです(ディスカバリーチャンネルでよく放送されています)。というかスケールの大きい話が多いので古さを感じないです(ヴァンゲリスの美しい音楽も印象的)。なんせ宇宙の歴史をビックバンから現代に至るまでを1年365日の宇宙カレンダーに圧縮すると人間の誕生は12月31日の夜10時30分。文字を使い出したのはほんの数秒前みたいな話から始まるので36年程度のタイムラグなんてどーって事はありません。
ボイジャーに関しては主に「第6話:大航海物語」にて語られています。セーガンはSETISearch for Extra-Terrestrial Intelligence:地球外知的生命体探査)との関わりが深い人です。E.T.Extra-Terrestrial )によって発見・解読されることを前提に、普遍的なメッセージを太陽系外に飛ぶ探査機に搭載するその最初の試みがパイオニア探査機の金属板で、その集大成がボイジャーのゴールデンレコードになります。生みの親ですね。 

『スターマン/愛・宇宙はるかに(1984年)』

1977年8月20日ボイジャー2号(1号故障のため先に2号が打ち上げられた)の発射シーンの音声から始まるジョン・カーペンターの”僕にだって普通の映画くらい撮れるんだ”的なハートウォーミングな映画です。チャック・ベリーじゃなくてローリング・ストーンズの「サティスファクション」が「ベンソン・アリゾナ」の如く宇宙空間に漂い流れます。ちなみに音楽はジャック・ニッチェでカーペンター色は排除されています(ホラーじゃないのでいたしかたなし...)。
遥かな宇宙でボイジャーのゴールデンレコードに収録された「地球に歓迎する」という言葉を受け取り来訪した異星人が、夫を亡くして悲しみに暮れて飲んだくれる孤独カレン・アレンの家に『ハロウィン』のオープニングみたいな一人称視点で不法侵入するのが物語の発端です。
異星人はアルバム写真から三次元データを生成し遺髪のDNAからジェフ・ブリッジスのクローンを作ります(これは今の技術でも出来そう)。そして赤ん坊から『狼男アメリカン』みたいにあっという間にジェフ・ブリッジスに成人して活動母体とします(これは出来なさそう)。その後カレン・アレン誘拐して七つの銀玉を使って母星に救助要請の通信したり、車のフロントガラスに地図を出したり、車の事故の被害者の持つバールを溶かして脅迫したり鹿を助けたりカジノから金を巻き上げたりと立派に犯罪的な行動で目的地への逃避行を繰り広げます。
その後いろいろあって最終的にはカレン・アレンが神の奇跡の如く子を宿して孤独から救われる感動のハッピーエンドになるわけですが、この死者のクローンを使って愛する夫の子を宿すという展開は、将来的には宇宙人がいなくても可能な技術ではないでしょうか。これを今リメイクするとSFじゃなくて不妊治療を専門とする医師が元夫を忘れられない愛する女性に倫理規定を破って治療を施すか葛藤するという、男と女と死者を交えた三角関係的な医療メロドラマ(クローネンバーグだとホラー)とかになりそうです。 
まぁ、冗談はともかく、カーペンターって誰?という普段映画を見ないごく普通の人々にこそおススメしたい作品です。

『コンタクト(1997年)』

カール・セーガン原作、ロバート・ゼメキス監督のファースト・コンタクト物の名作です(これはボイジャーじゃなくてセーガン絡み)。カール・セーガンの願望をそのまま小説にしたようなリアルとフィクションの混じり具合も絶妙な作品で、地球からの衛星放送の電波をキャッチした親切な異星人が数学的なパルスによってコンタクトを求めてきます。さすがセーガン原作というかこの手の映画では一番科学考証がしっかりしている作品ではないでしょうか。
ジョディ・フォスター演じる主人公のエリーは両親を早くに亡くし、男性よりも仕事を優先する孤独SETIプロジェクトの研究者です。宗教と科学の関係も『天使と悪魔』よりはしっかりと描かれていて良いですね(神父のマシュー・マコノヒー無神論者のジョディ―・フォスターのやりとりが巧い)。
ロバート・ゼメキスという人は映画の伏線をこれでもかこれでもかと二重三重に張る人で、映画の前半を覚えておけば後半やクライマックスに起きるの出来事のが全てなるほどと納得できる伏線回収の教科書みたいな映画を撮る職人監督です。この映画もまさにその一本で、前半の伏線がクライマックスに全て集約・回収されています。 
あとこの映画で何度見てもびっくりするのはエリーが倒れた父のために二階に駆け上って鏡扉から薬を取りに行くシーンです。あれは何度みてもびっくりです。ゼメキスはSFXに見えないところをSFXで描くので油断なりません(クリントンはやり過ぎだと思いますけど)。

スター・トレック The Motion Picture (1979年)』

最近はただのアクション映画に成り下がった映画版スター・トレックですが、その映画版第1作に関してはSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」に対抗すべく巨額の予算とスタッフが動員された志の高いSF映画として製作されました(ちなみに科学技術顧問にアイザック・アシモフ先生がクレジットされています)。監督はノワール・ホラー・SFからミュージカルまで何でもござれの職人監督ロバート・ワイズです。
何と言ってもこの映画の素晴らしい点はそのSFマインドの高さというか先進性の高さです。つまりこの映画を一言で説明すると機械と人間が結婚して進化する話なんです。まだサイバーパンクも『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊(1995年)』も産声を上げる前ですからなんとも先進的な話です(ハーラン・エリスンは気に入らなかったみたいですけど)。孤独に宇宙を彷徨う機械が進化してAI的な自我を持ち、創造主をさがしに戻って来てその創造主結婚して帰るというなんとも泣けるお話です(帰るというか別次元に進化するのですがそこが一体何次元になるのかは謎です)。
ジェリー・ゴールドスミスの音楽とダグラス・トランブルによる光の魔術が美しく、素晴らしいです。エンタープライズ号の巨大さが良く出ていて、何故この巨大さの表現が今のCGで再現できないのかも謎です。

人類は衰退しました:第三巻「妖精さんの、おさとがえり」(2008年)』

ボイジャー(とパイオニア)の話だとこの作品を挙げない訳にはいけません。ヨシキじゃない方の田中さんこと田中ロミオさんのにんきばくはつちゅうのラノベ作品です(アニメだとepisode.05、06の2話でかなり駆け足な構成)。僕が今まで読んだ数少ないラノベの中で一番面白いオススメの作品です(あまり詳しくないのですが僕のラノベに対するイメージはこの作品のおかげで”読みやすい文体でのレベルの高い小説”のイメージです。普通の小説よりハードル高いですね)。一通り完結してしまったと思ったらなんかまだ続いているようでなによりです(ライフワークとしてずっと続けてほしいところ)。

さて、この「妖精さんの、おさとがえり」という話は何といってもぴおん(P子)とおやじ(O太郎)というネーミングセンスが素晴らしいですね。しかもぴおんはネコ耳の萌えキャラ設定で、おやじは任務拒否の引きこもり設定でなんか笑えます。日本人じゃないとこのネーミングセンスは伝わらないと思いますので日本人でよかったです。上記のスター・トレックTMPとパイオニアアノマリーをネタにしたSFですが、妖精さんが出てくるほのぼのさとちょっと捻ったブラックユーモアさが絶妙な王道SFコメディともいえる作品です。


以上ボイジャー絡みの地球外知的生命体探査に関する傑作SF作品5選です(5選というかこれぐらいしか思いつかない...)。面白いのはドキュメンタリーのコスモスを除くとどれも孤独な人間、あるいは機械がコンタクトによって救済されるメロドラマ的な要素が主題になっていることです。カレン・アレンジョディー・フォスターもビジャーもぴおんもおやじもみんな孤独なキャラ設定ですが、コンタクトによって救済されます。まぁ、結局性善説に基ずくコンタクト物は”We Are  Not Alone ”という別の映画のキャッチフレーズに落ち着かざるを得ないということなのでしょう。

そしてこのコンタクトがうまくいかないと一転してホラーやアクションといった別ジャンルの作品になってしまうのでしょうが、それはまた別のお話ということで。

 

(おまけ)

テッド・チャン著のSF短編「あなたの人生の物語」を原作とする『メッセージ』という映画は、ブレードランナーの続編『Blade Runner 2049』を手がけることも決まっているドゥニ・ヴィルヌーヴの監督作で評判も良いみたいで期待です。今後もこの手の映画の需要は途絶えないようなので楽しみですね。

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