『ルパン三世 TV第2シリーズ (1977-80年)』~「宮田雪」脚本の自然な展開の普通な面白さ~

とにかく話が奇想天外で荒唐無稽でナンセンスなルパン三世TV第2シリーズですが、中でも山崎忠昭大和屋竺宮田雪浦沢義雄といった日活映画や鈴木清順に関連していた脚本家の作品は今みても予想の斜め上をいく面白さがあります。
いかにモンキー・パンチ先生の原作がベースにあるとはいえTVシリーズは1話正味20分程。原作の1話そのままだと作品中のAパート程度しか埋まらないので、半分はオリジナルで脚本家が知恵を絞って埋めているということになり、腕の見せ所です。

三年間で通算155話もある第2シリーズは常時10人ぐらいの脚本家が関わっていたようですが中でも僕のお勧めは宮田雪さんの脚本です。第1シリーズでは「さらば愛しき魔女」という傑作を書いた人です。
宮田さんはwikiによりますと

大学卒業後、映画監督鈴木清順に師事し助監督の道へと進むも、その後大和屋竺の薦めで脚本家に転じる。ニューエイジ・スピリチュアルの世界にも身を置きホピ族らの文化に傾倒、水木しげるさんとは1970年頃から師弟関係にある 

というちょっと変わった経歴の持ち主のようです(第二シリーズ参加直前は山に篭っていたとか)。

宮田さんの担当話数は以下です。

第24話     怪盗ねずみ小僧現る(1978年3月20日)

第34話     吸血鬼になったルパン  (5月29日)

第37話     ジンギスカン埋蔵金(6月19日)

第41話     かぐや姫の宝を探せ(7月17日)    

第70話     クラシック泥棒と九官鳥 (1979年  2月12日)  

第72話     スケートボード殺人事件( 2月26日)    

第77話     占いでルパンを逮捕(4月2日)    

第86話     謎の夜光仮面現わる(6月4日)     

第105話   怪奇鬼首島に女が消えた(10月15日)   

第114話   迷画 最初の晩餐の秘密(12月17日)    

第116話   108つの鐘は 鳴ったか(12月31日)    

第120話   フランケンシュタイン ルパンを襲う(1980年 1月28日)

第134話   ルパン逮捕頂上作戦(5月5日)

第151話   ルパン逮捕ハイウェイ作戦(9月8日 )

 

どれも奇想天外だったり伝奇的な変わった雰囲気があったりと面白いのですが、中でも異色作なのが第34話「吸血鬼になったルパン」です。

ストーリーの前半をWikiから引用します(注:ネタバレです)。 

今から二千年前、マリアに二人の子が生まれ、一人がイエス・キリストだったが、もう一人の子には二本の牙が生えていた(吸血鬼だった)ために、父ヨセフがその子を山の上に捨ててしまった。その子がカミーラである。
カミーラは狼とコウモリに育てられ、やがてキリストが命よりも大事にしていた黄金のマリア像を奪って、キリストの手を逃れるために佐渡島の平来(ヘブライ)村に渡り、二千年もの間仮死状態で眠っていた(彼女曰く、キリストも平来村に渡って死んだのだという)。
だが、丸木戸博士に発掘され、病院に収容されるも姿を消し、ルパンの前に現れる。ルパンに「キスしてくれる?」と誘惑して自分に近付かせ、彼の首筋に噛み付いて吸血鬼にしようとする。

吸血鬼カーミラ青森県戸来(ヘブライ)村のキリストの墓伝説を合体させたなんとも奇想天外なプロットです(狼とコウモリに育てられたキリストと双子の吸血鬼!って、なんですかそれはw)。
日本が舞台なのにまったくそれらしいところがなく、あるとすれば吉幾三の「俺は田舎のプレスリー」が歌われるところぐらいです(何を言っているのか分からないかと思いますが...見れば分ります。このシーンはこれぞモンキー・パンチ的なサプライズです)。
あと佐渡島の丸木戸博士は丸木戸佐渡マルキ・ド・サド)のアナグラムだったりします(ダジャレですね)。
この話は無人の馬車やニンニクや十字架や怪しげな古城等、ちゃんとした吸血鬼映画の伝統にのっとったパロディです。古城の地下から吸血鬼一族がカミーラの奏でるピアノの旋律(ベートーベン ピアノソナタ第8番「悲愴」)と供に蘇るところなんかはハマーフィルム風吸血鬼映画の正統派ゴシックホラーともいえる雰囲気です。そこに大野雄二さんの音楽「デンジャラス・ゾーン」をバックにアクションシーンが始まると私はパブロフの犬のごとく無条件で興奮してしまいます(選曲のセンスも申し分なしです!)。

そしてルパンたちがどのようにして吸血鬼たちを退治するかということに関しても、ちゃんと「ルパン三世」一味ゆかりのアイテムを使用したアクションで退治します(ここはあまりに普通すぎて自然な展開なので記憶に残りませんが、映画のマモー編同様、あぁ、なるほどなという展開です)。
こういう濃くて質の高い脚本のアニメが普通に毎週ゴールデンタイムに子供向け(自分ものほほ~んと見てました)に放送されて視聴率も20%台だったというのはなんとも贅沢な時代です。

この辺の脚本家達の裏話は 飯岡 順一さんの「私の「ルパン三世」奮闘記: アニメ脚本物語」に断片的ではありますがいろいろ興味深い話が書かれています。専用の脚本家用分室を作ってアイディアを出し合って作っていたとか、第52話から清順さんが監修に入ったいきさつとか。(「監修:鈴木清順」は単なる名義貸しじゃなくてちゃんと監修してたんですね。清順さんのインタビュー本はインタビュアーがかわいそうになるくらいインタビュアー泣かせの内容なのでこの辺の事情は第三者の証言じゃないとちょっとよく判らない感じです)

第一シリーズと違って視聴率が良かったので第二シリーズはかなり自由で色々大胆な事をやっても文句がでなかったという感じでしょうかね。今ではこういう贅沢な脚本作りはされてないんだろうなと第四シリーズの惨憺たる出来映えを見て思ったりします(余計なお世話ですけど)。ただ回顧趣味とは別の次元でこうした普通に面白い話を作っていた優れた職業脚本家達が再評価され、見慣れた第2シリーズを見る時に誰の脚本かということに注目して頂ければちょっと違った視点からの楽しみ方が増えていいかなと思う次第です。