『女系家族(1963年)』 ~ 三隅研次の女性映画①(京マチ子編)

男性向け時代劇や活劇を主なジャンルとして活躍し、広くは海外のジョン・カーペンターサム・ライミクエンティン・タランティーノにまで影響を与えた(*1三隅研次ですが、大映プログラム・ピクチャーの職人監督として、市川雷蔵の『眠狂四郎』や勝新太郎の『座頭市』のようなシリーズ物時代劇のローテーションの他にも怪談物(『四谷怪談(59年)』)、スペクタクル史劇(『釈迦(61年)』)、伝記物(『巨人 大隈重信(63年)』)、特撮物(『大魔神怒る(66年)』)に至るまで様々なジャンルの映画をこなしています。

そんな中でも今回ご紹介したいのが女性を主人公とした文芸映です。これが意外というか当然というべきか、ストイックでフェティシュな三隅研次こだわりの孤高の映像美学が炸裂しておりますので何本かご紹介したいと思います。


女系家族(1963年)』

まずは『新選組始末記(1963年)』の次に撮られた『女系家族(63年)』からご紹介します。山崎豊子のベストセラー小説の映画化でドラマ化も何度かされているので話は有名かと思いますが、老舗問屋の養子婿が死んだことで巻き起こる娘たちの遺産相続争いを描いた作品です。川島雄三の『しとやかな獣(62年)』にも似た腹黒い登場人物ばかりが出てくる権謀術数的なブラックコメディともいえます。

キャストが長女・京マチ子、次女・鳳八千代、三女・高田美和に親類の浪花千栄子、愛人の若尾文子、番頭の中村鴈冶郎、長女の愛人の田宮二郎というこれ以上望むべくもない豪華な俳優陣で素晴らしい演技バトルもこの映画の見所です。特に欲望の塊のような主役を演じる京マチ子の存在感が圧倒的ですし、浪花千栄子、中村鴈冶郎の芸達者ぶりも笑わせてくれます(若尾様は出番少ないですが、おいしい役回りです)。

スタッフも脚本・依田義賢、撮影・ 宮川一夫、美術・内藤昭と今となってはロスト・テクノロジーとなった大映京都の素晴らしい技術的達成度が存分に堪能できます。


では具体的にこの映画の魅力を見ていきたいと思うのですが、  三隅研次の主な魅力と言えばまずはその考え抜かれた画面の構図(撮影)と無駄のないカッティングのリズム(編集)とこだわりの小道具や衣装や凝った意匠(美術)が三位一体となった孤高の映像美学ではないでしょうか。そのこだわりにこだわった演出に関しては、組んだスタッフにもうるさがられる程だったそうですが(小溝口と言われていたとか)、そういう撮影所システムの裏方のしっかりとした技術と労力の甲斐もあってか、そのフィルムに刻まれた三隅研次のストイックでフェティッシュなこだわりの映像美学を現在僕らが堪能する事が出来るわけです。それではその映像美学に関してかいつまんでご紹介致します(注:以下ネタバレというか画像バレです)。

 

<パース及び遠近の強調された構図>

 遺産相続が話の中心ですので三姉妹及び親戚一同の多人数が日本家屋内に集まるシーンがメインになります。そうなると複数人を捉えたパース及び遠近の強調された構図が使用されます。これがあまりにもカッコよすぎてそこにシビレるあこがれるぅとでもいうべき完璧な画面構成です。

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シネスコ画面内にスタンダード画面を入れる二重構図>

シネスコの横長画面をどう使うかで監督の個性が出ますが、三隅研次は襖や障子やその他何か遮るモノを使用して固定画面の半分を余白にするシネスコの中にスタンダード画面を作るようなダブルスタンダードとも言える二重構図をよく使います。絵心はあっても特に事前に絵コンテを切ることはなかったそうですので、現場で粘って使えそうなシネスコ画面を遮るスタンダード画面を入れる二重構図を探していたのかもしれません。

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<画面の全てを埋め尽くすモノの構図>

三隅研次の映画を見ている中で急にはっとさせられるのは要所要所で画面を埋め尽くすモノの短いショットが示されて編集のリズムが形作られる点です(俯瞰ショットである場合が多いです)。京マチ子が相続する貸家一帯は画面のほぼ全てを埋め尽くす瓦屋根の反復が俯瞰で表現されます。 尚、編集のリズムに関して三隅研次は二コマ増やせとか一コマ削れとかコマ単位でこだわって指定していたそうです。

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 <足のフェチズム>

三隅研次ブレッソンのように体の一部分をクローズアップして古典的にエロティックなラブシーンを撮ります(宇宙との交感といった大袈裟なものではありませんが)。若尾様の登場シーンも足からですね。

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<こだわりの美術>

京マチ子田宮二郎が逢引する料亭には背景黒で白い鳥と木が描かれた掛け軸が飾られています。これが二人の情事をきっかけに白黒反転します(物語的にも二人の関係性が反転します)。これは美術の内藤昭さんとのコラボ演出と思われます。

 ・情事前の料亭

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・情事を行う旅館の部屋(急に窓の外が白く輝きます←清順かっ!)

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・情事後の料亭

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ちなみに『大菩薩峠(60年)』、『眠狂四郎炎情剣(65年)』にも似たような白地に黒い鳥の屏風や襖の絵が出てきます。これは美術の内藤昭さんの趣味というかトレードマークみたいなものらしいです。(*2

大菩薩峠(60年)>

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眠狂四郎炎情剣(65年)>

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 (画像は全て© KADOKAWA

 (②へと続く)

 

 

*1:子連れ狼『子を貸し腕貸しつかまつる(72年)』と『三途の川の乳母車(72年)』を1本に編集した 『Shogun Assassin(80年)』がロジャー・コーマンによって公開され、元祖スプラッター映画(!?)としてカルト的に評価された。

*2:「映画美術の情念」 内藤昭/聞き手・東陽一 10/20/92リトルモア発行