『キングコング(1933年)』 ~ 彼について私が知っている二、三の事柄

いよいよ実写版『美女と野獣』が公開されますが、『美女と野獣』以上に美女と野獣をことさら言及する映画、それが1933年版『キングコング』です。しかしこの映画は映画内で一体何回美女と野獣を言及しているのでしょうか?暇な人は数えてみてください(なんと9回も言及していますよ←暇なヤツ)。

だいたいこの映画はオープニングからして「そして預言者は言った”そして見よ。野獣美女の顔を見上げたが、その首を絞めようと伸びた手はとどまり、その日を境に野獣は抜け殻のようになった”」と古代アラビアの諺などという、いかにももっともらしい話をわざわざでっちあげて(この諺はメリアン・C・クーパーの創作です!)言及するのですからその美女と野獣のテーマ性はしつこいくらいに明確です。

当時いくらターザンのような「ジャングルを舞台とした秘境冒険映画」や「実写の猛獣映画」が盛んに作られていたとしてもそれを美女と野獣の悲劇(原作はハッピーエンドですが)の物語で融合するというのがこの映画の製作者メリアン・C・クーパーの新たな野望だったのでしょう。

ということでこの美女と野獣のテーマは

1976年のジョン・ギラーミン版(美女はジェシカ・ラング)、

2005年のピーター・ジャクソン版(美女はナオミ・ワッツ)、

ひいては香港ショウ・ブラザーズの丸パクリながらも出来は今年のより遥かに素晴らしい『北京原人の逆襲(1977年)』(美女はイヴリン・クラフト)、

に至るまでちゃんと継承されています(まぁ今年のは美女野獣も主軸ではありませんので単なるスピンオフなのでしょうが)。

さて、メリアン・C・クーパーとアーネスト・B・シュードサックの武勇伝に関しては前回触れましたので今回は映画製作における彼の才能豊かなカンの鋭さと商魂たくましいプロデユーサーとしての強引な手腕とアーネスト・B・シュードサックの職人監督としての腕の良さに関して書いてみたいと思います。 

≪メリアン・C・クーパー(右側)とその相棒アーネスト・B・シュードサック≫
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≪以下はMario LarrinagaとByron Crabbeによるコンセプトアート。野獣美女の服を器用に脱がすという本家以上ともいえるリアル”美女と野獣”なシーンです≫

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≪こちらはマットペイントを描くMario LarrinagaとByron Crabbe≫

http://3.bp.blogspot.com/-jcliuI7FDXQ/Ud5Imps374I/AAAAAAAANns/ipctppZVIug/s640/Larrinaga+painting+with+Crabbe.JPG

  (※画像は以下より)

King Kong :: KONG / THE BEAST

Terrifying Vintage KING KONG 1933 Concept Art by Mario Larrinaga and Byron Crabbe « Film Sketchr

 

キングコング』と血縁関係にある二本の映画

美女と野獣』とは別に『キングコング』が産み落とされるにあたってその血縁関係とでもいうべき二本の映画が存在しています。一本は 1932年の『猟奇島/The Most Dangerous Game』、直訳すると「最も危険な遊戯」です。何が最も危険なのかというとこの映画はあの有名な殺人鬼ソディアックが犯行声明に流用するほど危険な映画なのです。以下wikiより

 https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f8/Zodiac_cipher.png

ゾディアックの犯行声明文。孤島の領主による人間狩りゲームを描いた1932年のスリラー映画『猟奇島』(The Most Dangerous Game)から、「森で動物を狩るよりも人間を殺す方が好きだ。人間は最も危険な獲物だからだ」という台詞が引用されている

孤島であるにも関わらずいかにもゴシックな洋館といかにも怪しいその館の主人とさらに怪しく不気味な用人が出て来るいかにもミステリアスなこの映画は、いかにもハリウッドのジャンル映画の経済原則に乗っ取った簡潔(78分です)に引き締まったスリラー映画として楽しめるおすすめの1本です。そして何故この映画がキングコングと血縁関係なのかと申しますと、言わずもがなこの映画の製作はメリアン・C・クーパー及び監督はその相棒アーネスト・B・シュードサック、つまりキングコングの監督コンビなのです。そしてキングコングと同時期に制作されたのでジャングルのセットが流用されていることで有名です(例の丸太の一本橋も出てきます)。つまりコングとは一卵性双生児的な関係にある映画です

しかしこれが同時進行で製作していたとなると(こちらの公開は1932年)32年~33年にかけてシュードザックだけで五本もの映画を手がけていたことになるのですから、職人監督としてのその手腕の高さが伺えます。

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一本橋から落とされた人たちが残酷に殺されるシーンはカットされたようですがググればyoutubeで見ることができます≫

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そしてもう一本の血縁関係と言うべき映画が『creation 』という映画です。

これはキング・コングの驚異的な特撮の大部分を担当したウィリス・オブライエン(Willis H. O'Brien、1886年3月2日 - 1962年11月8日)が1930年頃にストップモーションアニメの特撮で関わっていた映画です(ググれば少し見ることができます。多少モデルが粘土っぽいですが特撮手法的には既に完成されていて、その技術が『キングコング』に流用されています)

そしてこの特殊効果に驚嘆したメリアン・C・クーパーはオブライエンに話が退屈な『creation 』をキャンセルさせ、自分の巨大ゴリラとコモド大ドラゴンが戦う映画に引き抜きます(逆に予算がかかりすぎて中止になったためオブライエンが売り込んだと言う説もありますが)。そしてさらにはクーパーは『creation 』をオクラ入りにしてしまいます。道理でこの映画だれも知らない訳ですね。つまりライバルを吸収合併して葬り去るという強引なM &A 手法を使ってキングコングのセンセーショナルなデビューを計ったという訳です。なかなかの策士ですね、クーパー。

 

ということで『美女と野獣』と『最も危険な遊戯』(じゃなくて『猟奇島』)と『creation 』という3つの血縁関係から誕生した”世界の8不思議”ことキングコング。”こんなの始めてー”、な今迄誰も見たことのない、”ハリウッドが生んだ一番面白い映画”が誕生し、クーパーの思惑通り世界を席巻する大ヒットとなったのです。そしてその背景には一卵性双生児のミステリー映画と世に誕生する前に葬り去られた名も知れぬ特撮映画が存在していたのです。

以上『キングコング1933年)』 ~ 彼について私が知っている二、三の事柄でした。 

 

≪思惑通りセンセーショナルなデビューを計り、異様に盛り上がる劇場の様子≫

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≪おまけ:その筋(どの筋だよ(╹◡╹))では一定の知名度があるらしい『江戸に現れたキングコング(1938年)』。残念ながら現在はフィルムの所在が不明とのこと≫

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