スティーブン・スピルバーグ映画の傾向と対策【巨大生物・物体編】〜 『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント(2016年)』

2016年は現在アメリカ映画界最高峰の演出力を誇る映画作家の一人、スティーブン・スピルバーグ(以下スピと称す)の新作が二本も公開されるという幸運な年です。スピと同時代に活躍したジョン・カーペンター(以下ジョンカペと称す)が早すぎる隠居状態を強いられているのを見るにつけ、今だスピがヒットメーカーとして生き残って現役で活躍し続けているというのはクリント・イーストウッド共々非常に幸運な事に思えてファンとしては嬉しい限りです。

スピルバーグ映画の傾向と対策【巨大生物・物体編】

『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』、大きな・やさいしい・巨人

巨人大きいのだからビッグであることは当然ではないかと思いつつも、ロアルド・ダールの原題のままであるからと納得することにして、ビッグフレンドリージャイアンであるという題名はスピの映画にとって中々ふさわしいものに思えますし、期待せざるを得ません。というのもスピはその実質的な処女作から大きく巨大なモノが襲いかかったり、冒頭やクライマックスに登場したりする映画を折にふれて製作してきたからです。ざっと思い浮かぶだけでも以下の作品があります。

 

『激突!(1971年)』⇒巨大トレーラー、

ジョーズ(1975年)』⇒巨大サメ、

未知との遭遇(1977年)』、『E.T,(1982年)』⇒巨大マザーシップ、

『1941(1979年)』⇒巨大観覧車、

レイダース/失われたアーク《聖櫃》(1981年)』⇒巨大岩石、

インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説(1984年)』⇒巨大邪神像の魔宮、

ジュラシック・パーク(1993年)』、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク(1997年)』⇒巨大恐竜、

宇宙戦争(2005年)』⇒巨大トライポッド

インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(2008年)』⇒巨大UFO

 

とまぁ、中にはちょっと怪しいモノも混ざっていますが、そのフィルモグラフィーの三分の一くらいは何か巨大なモノが襲ってきたり何か巨大なモノを仰ぎ見る人々の映画なのです(フレンドリーなのは『未知との遭遇』と『E.T.』あたりでしょうか)。ちょっと多いですよね。しかもそのフィルモグラフィーのジャンルも特に多彩ということでもありません。僕にとって監督としてのスピとはどんなジャンルも器用にこなす職人監督というより、特定のジャンルをしつこく繰り返す不器用な映画作家という認識です(主人公が死ぬ『アメリカン・スナイパー』やスペクタクル史劇の『エクソダス』を蹴って人助け人権政治映画の『ブリッジ・オブ・スパイ(2015年)』を撮るあたりがなんともスピらしい選択です)。

この強迫観念とも人間の本能とも言える巨大なモノが襲ってくるという恐怖は、サスペンスであれ、SFであれ、アドベンチャーであれ、娯楽映画のつかみや主題として、あるいはデウス・エクス・マキナ的なクライマックスとして、スピと相性の良い題材なのでしょう。

さて、この何か巨大なモノが襲ってくるという展開の次に何が来るかというと、ある者は死に、ある者は生き残るというこれまた単純な論理が発生します。生きるべきか死ぬべきかそれが問題だという問題に関してスピ映画の主人公は『太陽の帝国(1987年)』のクリスチャン・ベール少年のように躊躇なく生き残る事を選択します。これはスピがアカデミー名誉賞受賞に冷ややかな対応(*1)をしたエリア・カザン的ともいえる泥臭い生き残りの哲学です。

この最終的に(あらゆる犠牲を伴っても)生き残る/人を助けるという選択は彼の作ってきた全ての映画に関して当てはまります。唯一の例外は処女作の『続・激突! カージャック(1974年)』のみです。主人公が死んでしまうニューシネマ風のロードムービーという『続・激突! カージャック』の興行的失敗は、これ以降、スピをこのジャンルから遠ざけます。『1941(1979年)』のコメディにしてもしかりです。一度興行的に失敗したジャンルには二度と手を出さずSFや戦争映画や人権政治映画といった同一ジャンルをしつこく撮り続ける。これはジョンカペが皮肉ったようにスピの商売人としての嗅覚の鋭さなのかもしれませんし、作家としての資質なのかもしれません。何よりも生き残る事を選択し(この事はディズニーとの初提携も含まれます)、似たような題材を繰り返すのがスピ映画の特徴です。

ということでスピの映画の多くにはビッグジャイアンなモノが出てくるという傾向があるのですが、その対策としては、その巨大なものを仰ぎ見る人々を観察する必要があります(仰ぎ見て、巨大なものを凝視している瞬間は安全が保証されます)。今回の映画でも当然というか必ずそうしたシーンがあると思いますので、注意して探してみてみましょう。尚、今回の作品の脚本は『E.T.』以来34年振りのメリッサ・マシスン*2)だそうです。また音楽:ジョン・ウィリアムズや撮影:ヤヌス・カミンスキーや編集:マイケル・カーンといったスタッフもいつものスピ組です。スピが長年追い求めてきたビッグフレンドリージャイアンなモノは何か?。スピのこれまでの映画を顧みつつ、そのことを確かめるためにも劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

≪巨大なモノを仰ぎ見る人々≫

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(※ジョンカペがスピを皮肉ってボヤく話は以下を参照)

callmesnake1997.hatenablog.com

 

*1:スタンディングオベーションではなく座ったまま拍手

*2:2015年11月病気で亡くなり、本作が遺作となりました