『ヒッチコック/トリュフォー(2015年)』と『JACO[ジャコ](2015年)』、天才アーティストのドキュメンタリー二本立て

今月はシネマカリテで面白いドキュメンタリー映画が二本立て(別料金で続けて見ればの話ですけどね)で見れますのでご紹介します。

アルフレッド・ヒッチコックフランソワ・トリュフォージャコ・パストリアスに関するドキュメンタリーです。 どちらも当時は理解されなかったにも関わらず、現在においては如何に映画界や音楽界に多大な影響を与えているかということが分かる天才アーティストのドキュメンタリー映画です。f:id:callmesnake1997:20161211141323j:plain

ヒッチコックトリュフォー

1962年当時、あまりにもアルフレッド・ヒッチコックの偉大さに気づいていなかったバカなアメリカ人を見返すべく(?)フランソワ・トリュフォーが一週間50時間の長大なインタビューを行い、ヒッチコックが”世界中で最も偉大な監督”であることを証明した名著『定本 映画術 ヒッチコックトリュフォー』に関するドキュメンタリーです。

上映時間は80分と短いのでうすがそのうち半分は以下のそうそうたる現役の監督によって如何に映画術の影響を受けたかが語られます。

マーティン・スコセッシピーター・ボグダノヴィッチ黒沢清デビッド・フィンチャーリチャード・リンクレイターウェス・アンダーソンジェームズ・グレイオリヴィエ・アサイヤスアルノー・デプレシャン

出演監督にブライアン・デ・パルマがいないのが残念ですが、それ以外は文句無しの人選です。黒沢さんも入っています(「ヒッチコックだけは絶対真似してはならない」と以前どこかで書かれていた話が出てきます)

正直80分の上映時間の中でタイトルのインタビュー自体の扱いが少ないのが物足りないのですが、現在において如何にこの本の影響が大きいかという部分に焦点を当てた映画として見れば面白いかもしれません。とにかくこの映画を見ると何度も見たはずのヒッチコック映画をまた見たくなります。

あと現在午前十時の映画祭で映画史上最も官能的な変態映画『めまい』を4Kリマスターでやっていますのでそちらと合わせてオススメです。

hitchcocktruffaut-movie.com

asa10.eiga.com

http://hitchcocktruffaut-movie.com/commons/img/pic_intro_01.jpg


『JACO[ジャコ]』

こちらも稀代の天才アーティスト(ジャズ・ベースプレーヤー)、ジャコ・パストリアスのドキュメンタリーです。ヒッチコックが世間から偉大な作家として認めらなかったにも関わらず商業映画監督としては成功してきたのに対して、ジャコは誰もが才能を認めていたミュージシャンズミュージシャンであったにも関わらず、商業的には恵まれず35才の若さで非業の死を遂げた天才アーティストです。

こちらの尺はニ時間近くありますのでジャコの生い立ちからアルバムデビュー、ウェザー・リポート時代とジョー・ザヴィヌルとの確執、ソロ以降の二枚目の商業的失敗、薬物使用から双極性障害、非業の死、さらに亡くなった後の音楽的影響の大きさまでを余すところなく人間ジャコの素顔に迫っています。

驚いたのはジャコの父親が8ミリで撮った幼少時代や亡くなる前の電話の内容等かなりプライベートな部分含めて詳細に描かれている事で、おそらくこれ以上のジャコのドキュメンタリーは出来無いであろうと思わせるほどよく素材の集められた決定版ともいえる作品です(製作総指揮の一人はジャコの息子ジョン・パストリアスが参加しているので父親としてのジャコという視点も映画で描かれます)。

インタビューで登場する人々も多彩かつ豪華で、それぞれジャコとの出会いや想い出のエピソードを語っています。主なミュージシャンだけでもフリー (レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、ジョニ・ミッチェルスティングウェイン・ショーターハービー・ハンコック、ゲディー・リー(ラッシュ)、ブーツィー・コリンズカルロス・サンタナ、ジェリー・ジェモット等が出演しています。そしてこの映画の製作はメタリカのベーシスト、ロバート・トゥルージロです。ロック、ジャズ、ソウル、ファンク、ヘヴィメタとジャンルを越えたミュージシャン達が一様にしてジャコを初めて聞いた時は衝撃的だったと語っているのが面白いです。

ジャコはベースを単なるリズム楽器としてではなく、打楽器やボーカルの如くメロディアスに唄わせて弾くベーシスト界のジミヘンのような革新的なミュージシャンです。映画ではベースを床に置いて琴みたいに弾いたり、ドラマーに投げつけたりとパンクな一面も垣間見れます。あとwikiに書いてある以下のパフォーマンスも映画で見れます。

ライブ中でのベース・ソロ終盤には概ねディストーションを掛けた状態でのハーモニクス奏法で『ジャコ・パストリアスの肖像』収録「トレーシーの肖像」を弾き始め、ジミ・ヘンドリックスの「Third Stone From The Sun」などから有名なフレーズも引用したプレイの後、ベースを床に置きハーモニクスを鳴らしフィードバックが続いている中、忽然とステージから消え、再び現れてベースのボリュームを絞りフィードバックを止めて楽器を休める、といったような光景だった 

チャーリー・パーカージミ・ヘンドリックスと同じくそのジャンルや楽器の概念を破った革新的なミュージシャンながらもクスリに溺れ病気に苦しみ短い活動期間で早世したジャコ・パストリアス。彼の短くも濃い生涯と革新的な音楽を追った全ての音楽ファンに見て聞いて欲しいおすすめのドキュメンタリーです。

www.jaco-movie.jp 

 

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 ジャコのアルバムはライブや本映画のサントラ含めてほとんどSpotifyで聞けます。

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ヒッチコックの傑作群を支えたバーナード・ハーマンは以下から。

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