『ハロウィン(1978年)』 ~ ジョン・カーペンターによる低予算ホラー映画のヌーヴェルヴァーグ

今月はハロウィンですね。ハロウィン関連でおススメの映画はといいますと・・・『E.T.(1982年)』でも『パーフェクト・ワールド(1993年)』でも『カウボーイビバップ 天国の扉(2001年)』や『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!(2005年)』でもなく、ましてや『スリーピー・ホロウ(1999年)』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(1993年)』でもなく、やはり当然の如く『ハロウィン(1978年)』ということになります(←タイトルそのまんまです)。

このジョン・カーペンターによる低予算ホラー映画の金字塔はそのコロンブスの卵的な独特な発想とスタイルによって現在においてもその異彩を放ち続けています。

そしてこの映画は低予算であることが映画にとってなんらハンデとなることはないということを証明し、逆に低予算であることで画期的な映画を発明できるということを証明した革新的な作品でもあるのです。

キューブリックを超える衝撃のオープニング

まずこの映画が画期的で革新的である点の一つとしてそのオープニングシークエンスが挙げられます。この映画のオープニングは一人称の視点による主観ショットの長回しステディカム*1)という当時としては珍しい手ブレのない手持ちカメラによって構築されています。

この一人称の視点による主観ショットの長回しによる殺人シーンがヒッチコックの『サイコ(1960年)』(*2)のシャワーシーンの如く衝撃的なのですが、さらに衝撃的なのはこの長回しワンシーン・ワンカット(正確にはお面を被るところでカットが割られている)のシークエンスの最後がクレーン撮影による視点の拡張というちょっとした映画的な発明によって終わる点です。

延々と続くステディカムによるワンシーン・ワンカットによる惨劇が行われる主観ショットの後、不意に血の付いたナイフを持ってマスクを剥がされた少年のフルショットの客観ショットへジャンプカットし、さらにクレーンによる後退移動の俯瞰ショットとして観客の視点が拡張されます。このステディカムとクレーン撮影を組み合わせで主観ショットを客観ショットに切り替えて視点を拡張するというコロンブスの卵的な手法が新たな映画空間を創出した点が衝撃的なのです。

これは後発の『シャイニング(1980年)』が単にステディカムを使ってその消失点を中心に保つ構図の維持という手抜き演出のみに延々と使用され、なんら視点の拡張といった新たな映画空間の創出をもたらさなかったという点を考えると、いかにスタンリー・キューブリックであろうともこの点に関してはジョン・カーペンターの発想のユニークさには敵わなかったといえるのではないでしょうか。

低予算ホラー映画のヌーヴェルヴァーグ

さらに言えばこの映画がもたらした後世の映画史への影響はゴダールの『勝手にしやがれ(1959年)』に少々似ています。このヌーヴェルヴァーグの記念碑的作品は手持ちカメラの使用(や斬新なジャンプカット*3)等の技法)により映画をスタジオから街頭撮影に引きずり出し、より自由な映画製作を可能にした画期的な作品と言われています。

そして、この革新的といえる作品がカメラを持てば誰でも映画が撮れると勘違いした素人を大量に生み出したと言われ、その結果誰もがゴダールになれる訳ではないという至極当然というか残酷な事実が露呈した訳です。

この現象は『ハロウィン』の場合も同様です。製作費32万5千ドルがアメリカ国内の興行収入だけでも4700万ドルを稼ぐ大ヒットとなった訳ですから、柳の下のドジョウを狙って誰でも残酷なスプラッター描写を入れれば簡単にヒットする低予算のティーン向けホラー映画ができると勘違いし、その手の映画が大量に量産されることになったのです。

実際この手の(マスクを被った不死身の殺人鬼が登場する)ティーン向けホラー映画は今日に至るまでその需要が途絶えることなく続いています。そうした低予算ホラー映画は玉石混交で若い才能のある映画作家の登竜門になったりならなかったりもするのですが、そうした綿々と続くティーン向けホラー映画の起点の一つとなったのがこの作品であり、幸か不幸か現在に至るまで雨後の竹の子のごとく同様の作品が作られ続け(*4)ています。そしてその結果は誰もがジョン・カーペンターになれる訳ではないという至極当然というか残酷な事実が露呈してしまうという結果をみることになります。誰もがゴダールどころかジョン・カーペンターにさえもなれる訳ではないのです。

あともう一点。この映画が革新的なのは他のジョンカペ作品と同様、音響と映像が掛け算的に相乗効果を生み出している点です。たった 3日間で作られたという、例の基本的に一オクターブの曲でそれが半音下がる四分の五拍子の反復音楽と、その場その場を刹那的なに盛り上げるクリーピーでスケアリーな音響がハロウィンの夜を盛り上げてくれるでしょう。

という訳でこの映画は現在においてさえもそのコロンブスの卵的な独特な発想とスタイルによってその異彩を放ち続けている革新的で稀有な作品です(単に顔を映さないで立ってるだけの男の姿や、単にカーク船長のマスクを被って立っているだけの男の姿や、単に白いスーツを被った上にメガネという男の姿だけで怖がらせようという点も革新的なアイデアです)。

やはりハロウィンの季節には『ハロウィン』ですね。ではtrick or treat !ブギーマンが来るぞ!(まだ早いか)。

 

 

(ジョン・カぺの「黙示録三部作」に関する過去記事はこちら) 

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callmesnake1997.hatenablog.comHalloween

*1:正確にはパナグライド・カメラというパナビジョン社用の手持ち撮影用システム

*2:本作主演のジェイミー・リー・カーティスは言わずと知れた『サイコ』のジャネット・リーの娘

*3:ジーン・セバーグがポスターを丸めてベルモントを覗き込む主観ショットからキスシーンの客観ショットに切り替わるジャンプカットサミュエル・フラーの『四十挺の拳銃(1957年)』における銃口から覗き込む主観ショットからのキスシーンの客観ショットに切り替わるジャンプカットの引用

*4:実際ハロウィンだけでもパート8まで作られ、さらにリブート作が続いている


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